あなたの子ですが、内緒で育てます
 セレーネが、スカーフを外すと、短くなった銀髪が現れた。
 貧しい古着屋に、自分の髪を切って与えたのだ。
 世間知らずではあったが、馬鹿ではなかった。

「古着屋で、宝石を渡さなくて賢明だった」

 立ち寄る町では、兵士たちが怪しいものがいないか、セレーネが売ったものがないかと、痕跡を探し回っていた。
 宝石などが出回れば、居場所が知れてしまっていただろう。

「私が目覚めた時、ザカリア様がドアの前で、外からやってくる人間を警戒されていたでしょう? それで気づきました」
「ああ。あの時か」
「デルフィーナが、私を探し出そうとしているのだとわかりました。それにお腹の子が、危険を教えてくれたので……」

 セレーネの腹の中にいる子は、兄上と同じ遠くを見る力を持っているらしい。
 
「領地に入るまでは、危険なことに変わりはない。いつでも、身動きがとれるよう休める時に休め」
「はい。ありがとうございます」

 セレーネは長椅子に腰かけ、横になろうとしたのを見て止めた。

「寝台で休め」
「でも……」
「俺は旅に慣れている。床でも眠れるし、野宿もできる。だが、セレーネは違う。しっかり眠れ」
「ザカリア様、それではせめて毛布だけでも、お使いください」
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