あなたの子ですが、内緒で育てます
 デルフィーナに呪いでもかけられたのでは、と思ってしまうほど、セレーネが苦しそうにしている時がある。
 それは、眠っている時が一番多い。
 寝台で眠るセレーネがうなされ、額に汗を浮かべている。

「デ……ルフィーナ……」

 お腹の子が、セレーネに王宮の様子でも見せているのかもしれない。
 人の噂によると、新しい王妃は心を読み、気に入らない者を、牢屋に放り込んだり、罰を与えたりしているらしい。
 王都から離れた町でも耳にするくらいだ。
 王宮はデルフィーナに支配されてしまっているだろう。

「ジュストを王都から逃がして正解だったな」

 残酷な光景を見ているのか、セレーネは苦しそうにもがく。

「おい。いい加減、やめておけ」

 セレーネの腹に手をあて、子供に話しかける。
 王の子なら、俺の力がなんなのか、わかるだろう。

「母親が心配なのはわかる。だが、もう見せるな。お前も母親も、俺が守ってやる」

 うなされていたセレーネの顔が、穏やかなものに変わった。
 腹の子に俺の声が届いたのか、おとなしくなった。
 
 ――勢いで、守る約束をしてしまった。

 そのことに気づいたが、もう遅い。
 いや、迎えに行った時点で、巻き込まれるのはわかっていた。
 受け入れたのは俺だ。
 
「俺がいる限り、力を使う必要はない」

 そう腹の子に告げた――これ以後、子供の力によって、セレーネがなにかを見ることはなくなった。
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