あなたの子ですが、内緒で育てます
 周囲の人間に、私がデルフィーナと子供を殺そうとしている恐ろしい女だと偽ることも可能なのだ。

「お腹の子が『デルフィーナが憎いと聞こえる』……そう訴えています」
「セレーネ。今すぐこの場から立ち去れ。デルフィーナの前に姿を現すな」
「ルドヴィク様。正しくは、わたくしと子供の前からですわ」
「ああ、そうか」

 昨日まで、私に向けられていたルドヴィク様の笑顔が、デルフィーナに向けられている。
 幸せそうな二人。
 私という妻がここにいるのに、なぜ平気でいられるのだろう。
 声が震えた。

「ルドヴィク様……私はあなたの妻ではないのですか……」
「今は妃だが、お前の態度次第では考えよう」

 ――デルフィーナはルドヴィク様の愛情だけでなく、私から王妃の地位まで奪うの?

 私の心の声が聞こえたのか、デルフィーナは私を見てくすりと笑った。
 一年前、勝ち取った王妃の地位。
 努力して妃に選ばれた私。
 それがいとも簡単に奪われてしまった。
 そして、愛情も失っていく。
 まるで、昨日までの生活が夢であったかのように……
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