あなたの子ですが、内緒で育てます
 役人に賄賂を渡し、偽の身分証を発行できると聞いていた。
 しかし、王宮からの兵士は賄賂では、動かない。

「ザカリア様を罪人として扱えと、デルフィーナ王妃から命じられております」

 ジュストが交渉しても、兵士の態度はかたくなだ。
 私たちの一団には、大臣の使者もいて説得は難しそうだ。

「私が話します」
「そうするほかなさそうだ」

 デルフィーナの命令に逆らえば、兵士たちもどうなるかわからない。
 ザカリア様がジュストに剣を使わせないのは、兵士たちの心情を理解してのことだ。
 穏便に済ませるには、私とルチアノの存在を明らかにしたほうが早い。
 馬車のドアを開けて、兵士たちの前に立つ。

「私を覚えている者はいますか?」
「え……?」
「セ、セレーネ様!?」
「ご無事でいらっしゃったのか……」
「しかし、ザカリア様と……なぜ……」

 私の姿を目にした兵士たちがざわついた。
 馬車から、ルチアノも顔を出す。

「銀髪に青い目……。まさか、セレーネ様の子か?」
「よく似ていらっしゃるから、間違いないだろう」

 まさか、私が現れると思っていなかった兵士たちは動揺していた。
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