あなたの子ですが、内緒で育てます
 ジュストにそう言われ、ルチアノはホッとしたように座席に座り直す。
 町の人々がザカリア様の馬車に気づき、集まってきた。

「ザカリア様だ。もしや、王に代わって、即位されるのか?」
「そうだといいが。我々の暮らしは苦しくなる一方だ」
「おい、あれは、セレーネ様では?」
「セレーネ様!? 生きていらっしゃったのか」
「セレーネ様!」

 町の人々の声に兵士たちは戸惑いながらも、追い払わなかった。
 私は死んだと思われていたようだ。

「ジュスト、先導しろ。騒ぎになると面倒だ」
「了解しました」

 馬車の前にいる兵士たちを退け、ザカリア様が連れてきた護衛の一団が前に出る。
 身分でいえば、王の兵のほうが上だが、今は違う。
 周囲を安全に守り、王宮までの道を辿る。
 王宮に入ると、大臣たちが揃って並び、出迎えてくれた。

「我ら、セレーネ様の帰還を歓迎いたします」

 大臣たちの言葉に、ザカリア様の態度は冷ややかだった。

「調子がよすぎる。一度は見捨てたお前たちが、歓迎とは、よく言えたものだ」

 大臣たちはうなだれ、頭を下げた。
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