あなたの子ですが、内緒で育てます
 子供に注意されてしまった……

「王子が売りたいと言っているのだから、売っても問題ないな」

 ザカリアが珍しく笑っている。
 いや、こいつの笑い顔など、初めて見たかもしれない。

「セレーネに似て、可愛くない子供ですことっ!」

 ルチアノはデルフィーナに微笑んだ、
 その笑顔はまるで天使のようだ。
 王宮を警護するはずの兵士たちは、セレーネたちを止めず、にこにこ顔でルチアノを眺めている。
 普段なら、ここでロゼッテが登場し、俺たちに逆らう連中を牢屋に入れる流れになるはずだった。
 だが、ザカリアがいる。
 特異な力を持つザカリアに近づけないロゼッテは、安全な場所に匿われ、お菓子でも食べているのだろう。

「ルドヴィク様! 部屋に参りましょう。ここにいても、気分が悪くなるだけですわ」

 デルフィーナは勝ち目がないと判断したのか、諦め、自分の部屋に戻ることにしたようだ。

「わたくしのドレスやアクセサリーをセレーネから守らないと!」

 ――なぜ、この女を愛してしまったのか。

 セレーネをもう一度王妃にすれば元通りになるのではないか。
 王妃として王宮で暮らせば、セレーネも満足するはずだ。
 俺は、もう一度、セレーネとやり直すことを考え始めていた。
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