あなたがいてくれるから



(いや、まあ、隠せとは言われてないんだが─……)

両親はそんなことを言う人たちじゃないし、そもそも、ここの理事を考えれば隠さなくてもいいが、幼なじみたちも含め、葵咲も誉も隠すのは、一概に人が集まる理由から、家格を消したかったから。

顔や学力などの生まれ持ったものや能力で人が集まる分には、もうどうしようもないし、どうにかしようなんて考えていない。

(顔は両親譲りで、学力などの能力は所詮、恵まれた立場、環境だったゆえの恩恵だから)

家柄も同じこと。誉が持っているものなど、他の学生と何ら変わらず、驕るものにならない。
自分の立場に関しては思うことは色々とあるが、だからといって、あの家族の元に生まれたことも、愛されてきた日々も幸せに充ち満ちている。

しかし、隠せるものならば、隠した方が良い。
─それは、余計な争いを避けるため。

(特に、葵咲は自分よりも他を気にする。そのせいで余計な男に絡まれたら、たまったもんじゃない)

だから、そんな葵咲に想う奴が出来たと聞いて、誉は飛んできたのだ。

可愛い可愛い妹が、泣きそうな声で電話してきたから。─ごめんなさい、なんて、謝ることじゃないのに。

「─名家なんだな」

「え?」

「名家だからこそ、苗字を変えてるという事だろ?俺の家もそこそこだから……」

「医者一家、だっけ」

「一応?まぁ、それは父親の方だけど。母親の方は教師」

「へぇ」

「俺の過去、知ってるんだろ」

「……」

「露骨に視線を逸らすな。─彼女が心配で、追ってきたのか?」

「ん〜まぁ、そんなところ……」

いくら常識がないと言われがちな誉でも、妹の想いを勝手に告げることはいけない事だとわかるので、誤魔化しておく。


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