あなたがいてくれるから
「─ほら、これ。これ、2歳の葵咲な。んで、これが俺。貴重な同い年の時間かな。だから、4月頭だ。葵咲は3月だから」
「だから、何……」
「信じてもらえないかもしれないけど、今、手元にこれしかないから、白状する」
(まさか今更、そんなことに気づくなんて。もっと早く頭を回すことが出来ていたら、こんなことにはならなかっただろうに)
「─俺と葵咲は、兄妹だ」
「…………は? 」
「いや、うん。勘違いさせた俺が悪い!」
まさか、そんなことで誤解してるとは!!!
「兄妹……?」
「ああ。同じ両親の元に産まれた、兄妹だ」
「でも同じ学年……え、お前、留年した?」
「何でだよ。さっき言ったろ。誕生日的に、同じ学年になっちまったんだ。年子同学年ってやつ」
誉の言葉に、凛空は口元を覆った。
「悪かったって!」
「……いや、うん……」
「まさか、そんな誤解が生じるとは……ん?てか、なんでだ?年子同学年は確かに珍しいし、誕生日も言ってなかったけど、お前の話じゃ、俺、婚約者がいるのに他の女に手を出してるやつじゃん」
「うん。最初はそう思ってた」
「マジか……そんなことしたら、両親、いや、母さんに怒られるとかじゃすまねぇよ……」
普段、全く怒らない人だからこその気迫。
にっこりと微笑んだまま、淡々と話してくる姿は夢に見るほどの恐怖である。
暴力などで躾を受けた記憶は無いが、母さんの御怒りは精神的に摩耗する。
(因みに、暴力的躾がないのは、何か特別な理由があるわけではなく、母さんの手を痛めつける行為を許せない父さんからの言いつけであり、父さんは、普通に誉に拳骨する)
「……信じられない」
「え、証拠、もう手元ないんだが」
「……本当に? 」
「本当だよ。あ〜、そっか。苗字も違うから」
誉はこれほど、自分の身の上にじれったさを感じたことはない。
だって、こんな勘違い、身分証明書見せたら1発で終わる話。