あなたがいてくれるから


「……怒られるかな」

「何が」

「好きな人が出来たこと」

「……」

赤くなった両頬を包み込んで、呟く彼女。
あの優しい両親を見て、何を言ってるのか。

「怒るわけないだろ」

「そうかな」

「俺がここに来たのだって、お前の為だよ」

頭を撫でながら、誉は笑う。

「お前はなんだって深く考える性格だろ?中学からこの学園に入って、幼なじみたちと一緒とはいえ、ずっと頑張ってきたんだ。成績も保ってな」

「彼に勝てたことは無いけどね」

「ああ、学年1位なんだっけ。天宮凛空くん」

「うん」

「……一応聞いておくけど、お前はあいつが何をしているのかは知ってるんだよな?」

彼女は、目を瞬かせた。
そして、寂しそうな笑みを浮かべる。
それは、全てを悟っている顔で。

「誉がここに来たってことは、気付かれたのかな」

「誰に」

「お父さんとお母さんに」

「別にいいだろ。誰を好きになろうと、お前の自由だし。それは親が制限出来るものでもない」

「でも」

「あのふたりは、お前を家業に利用するために産んだわけでも、育ててきたわけでもないよ」

「……」

「大丈夫だから。俺を信じな?」

そう言って笑いかけると、彼女は小さく頷いた。

『あの子をひとりにしないで、お願い。誉』

そう言って願った、優しくて脆くて、夫にだけ甘えたなあの人は、自分によく似た娘を案じていた。

里帰りのとき、様子がおかしかったことに気が付いていたらしい。

─そんな、高校二年生の春。

タイミングが良いから、と、誉に願ったあの人は意外と冷静に、物事を見ている。

(……さて、一肌脱ぎますかね)

誉は自分の性格を、ここまで幸運に思ったことは無い。

敵を欺くのに便利だったこの見た目と、この性格は今、彼女の笑顔を守るために使えそうだ。

(寂しそうな顔、あまり見たくないし)

世界で一番初めに愛した彼女のため、誉は持ち前の頭脳をフル回転させて、作戦を練り始めた。

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