あなたがいてくれるから

初恋

✿*:



「─さて、なんで俺を言い訳にした?」

指定された場所。
あの渡り廊下が見える、空き教室。

そこに行くと、彼女は小さくなっていた。

「だって……」

「だってじゃねぇだろ」

「もういっぱいいっぱいで……」

「目標の連絡先交換は出来たんだろ?」

「誉を言い訳にしてね……」

「ゲッ、お前、そこでも俺を使ったのか」

「問題児でいてくれてありがとう」

「複雑だわ、アホ」

頭を小突くと、小さくなった彼女は甘えるように、誉に身を寄せてくる。

「んだよ」

「……どうして、転入してきたの」

「……」

面白そうだったから、と言うと、間違いなく殴られるだろうな、と思いつつ。

「わかってると思うけど、全寮制だよ。外出届けがないと、外に出られない。表で堂々と会えない誉が目立ったら、あの子はどうすれば良いの?」

「え、普通に会いに行くけど?」

「女子寮に入ってくる気?」

「別にいいだろ。昨日も成功したし」

「なんでそんな賭けに出るの」

「だって、長期休みにしか帰って来れないんだぞ?正直、めちゃくちゃ苦しいよ。それなら、昼だけでも一緒に食べたい」

「……」

「そりゃあ、一緒にいれる方法はいくらでもあるよ。でも、権力に物を言わせるの、あんまり好きじゃないんだよな」

「その前に、怒られるでしょ。理事長に」

「それはそう」

誉には、最愛の婚約者がいる。
でもそれは、目の前の彼女ではない。

(あいつは勘違いしてそうだが)

一応、転入する前に、一通り、自分に近しい存在になる人間の身辺調査は行っている。

それは護身のためであり、誉には必要不可欠なものだった。

いくら両親が優しく、甘くても、筋は通さなければならない。

そんな誉とは違う理由だが、目の前の彼女も、婚約者も、護身のためにこの学校に通っている。
それは余計な婚約を避けるため、余計な異性との接触を避けるための措置であり、隠れ蓑のように理事長によって作られたこの学園は、まだ新しい。

「あいつが好きなのか」

「えっ」

「うわ、真っ赤」

頬をつつくと、即座に払い落とされた。


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