この結婚はビジネスのはずでしたが、御曹司が本気で愛してきます
「結衣、いつもごめんなさいね。」

入院してから、母はやたらと謝るようになった。

何かあるたびに「悪いね」「ごめんね」「ありがとう」と言う。

昔はもっと気丈な人だったのに。

「ごめんなんていいのよ。お母さん、早く良くなってね。」

微笑んで言うと、母はゆっくりと頷いた。

「そうね……。結衣のために、早く病気を治さないとね。」

でもその言葉のあと、母は少し顔を歪めてベッドに横になる。

点滴の管が腕に絡み、乾いた咳をこぼす声が小さく響いた。

「無理しないで。今日は顔を見せに来ただけだから。」

母の痩せた肩をそっと撫でて、毛布をかけ直す。

帰り際、何か言いたそうな顔で母がこちらを見たが、私は気づかないふりをした。

これ以上、強くならなきゃいけない気がして――目を背けた。
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