この結婚はビジネスのはずでしたが、御曹司が本気で愛してきます
「ねえ、結衣。治療費は足りてる?」

母がぽつりと尋ねた。

「あっ、うん……」

つい答えてしまったけれど、本当は全然足りてない。

母が入院してから加入した、一日一万円の医療保険。

それだけが頼りだけれど、治療費だけでほぼ消えてしまう。

食事代、タオルの交換、洗濯、薬、検査、諸々の“想定外”は、全部私の財布から出ていく。

「こんなことだったら、もっと保険に入っておけばよかったわね……ごめんね、結衣。」

また、ごめんだ。

最近の母は、ことあるごとに謝ってくる。

それがつらい。

「いいのよ。生きていくことが、最優先なんだから。」

私は母の手をそっと握った。

冷たい。

それが心配で、強くも弱くも握れない。

母はふわっと微笑んで、ベッドに体を沈めた。

窓の外では、夕焼けが静かに滲んでいた。
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