全部、俺のものになるまで
──私は知っている。

一度だけ、社長に抱かれた夜があった。

残業が続いていた、ある深夜。

『君は、仕事熱心だな』

『……はい。社長の“熱”についていきたいんです』

そんな言葉のやり取りのあと、社長に激しく抱かれた。

熱くて、強引で、でもどこか優しさのにじんだ夜。

でも──それきり。

社長から再び誘われることはなく、私も口に出すことはなかった。

あれは一度だけの関係。そう、思っていた。

「高梨」

不意に名を呼ばれて、私はハッと我に返る。

「……はい」

「この案、進めろ」

短く、けれどはっきりとした言葉だった。

その声の奥に、あの夜と同じ熱を感じたのは──私の勘違いだろうか。
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