幼なじみの心は読めない、はずだったのに!

不必要な特殊能力 平田友紀 視点


 私の名前は平田友紀(ひらたゆき)、中学3年生。私には誰にも言えない秘密がある。

 それは── “人の瞳を見てしまうと、その人の心の声が聞こえてしまう”という特殊能力。自分の意思とは関係なく、聞きたくなくても聞こえてしまう。だから私は、なるべく人の瞳を見ないよう心がけて生きてきたゆえに彼氏はおろか親友と呼べる親しい友人さえ作れず、のらりくらりと過ごしてきた2年間。

 自分で言うのもなんなだけど、人の瞳が見れないってだけで程々に社交的ではあるし性格上お節介な質ではあるから、頼まれ事はできる範囲で引き受けちゃうってのもあって、なんだかんだ上手くはやれてる……はず。一部からは『なかなか目が合わない子、ちょっと変わった子』なんて言われてはいるけど、それは事実だしあまり気にしていない。

「あと1年かぁ」

 今日から3年生、中学校生活最後の年。新しいクラスに馴染めるかな……とても不安だ。うちの学校は生徒数がかなり多いから、今まで一度も同じクラスになったことがない人達なんて大勢いる。1~2年の時も初めましてな人達ばかりだったし、きっと今回もそうなる。

「また一から交遊関係築くの大変なんだよね……」

 こんないらない特殊能力のせいで。

「友紀ちゃんおはよ~」
「うわぁっ!? もお、びっくりしたぁ。ベランダから勝手に入ってくるのやめてって何回言えば分かるの郁雄!」
「へへっ」
「『へへっ』じゃなくて危ないでしょ!?」
「大丈夫だよぉ」

 大丈夫じゃないから心配してるんですけど! だって郁雄、破滅的にとろくさいじゃん!

「はあ……もう……」
「そもそも鍵閉めてない友紀ちゃんが悪いんだよ? 不用心だなぁ。僕はそっちのほうが心配」

 郁雄に心配されるとか世も末。

「(今日天気いいなぁ~)」
「ああ、今日午前中だけだって晴れなの。午後から雨降るらしいから傘持っていきなよ~」
「え?」
「ん? ……あ」

 やばっ、郁雄の心の声だった! 普通に会話しちゃったし!

「友紀ちゃんってエスパーみたいだね!」
「ハハッ」

 郁雄は特別というか、郁雄とは安心して瞳を見ながら会話ができる。なぜかって? 郁雄の心の声は読めないから。というより、郁雄の心の中は単純で非常にシンプル。例えば、「(眠いなぁ)」「(晴れてる~or曇ってる~)」「(お腹すいたなぁorお腹いっぱ~い)」「(友紀ちゃ~ん)」大抵これだから、安心して目と目を合わせられる。まぁ何を考えているのか全く読めない時も多々あるから謎めいた男なんだけども。

 郁雄に対して、心の声を勝手に聞いてしまうという罪悪感が一切ないとは言い切れないけれど、郁雄は何を考えているのか読めない時のほうが圧倒的に多いから、罪悪感とかあまりないかも?

「クラスどうなってるかなぁ? また友紀ちゃんと同じクラスがいいなぁ僕」
「奇跡的に1~2年一緒だったもんね」
「奇跡……かぁ。きっと必然なんだよ、僕達が離れられないのは」
「ははっ、なにそれ~」

 郁雄と視線が絡み合って、瞳をじっと見つめられる。

「(……)」

 ああ、やっぱダメだ、読めない。何も聞こえない、何を考えているんだろう。郁雄とは物心つく前からの付き合いだけど、郁雄の心はこの先もきっと読めない──。
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