幼なじみの心は読めない、はずだったのに!

お前が幸せならそれで 安曇琢矢 視点



「ふー、腹一杯。やっぱ琢矢ママのカレー美味すぎだわ、太るまじで」

 晩飯がまたカレーということもあり、沙雪が家で飯をしこたま食った。沙雪の腹はお世辞にも出てないとは言えねえ。ぽっこり出た腹を平然と出しながら俺のベッドに寝っ転がって、頭ん中は『またカレー食いた~い』『てか友紀大丈夫かなぁ?』ってところだろうな。

 元から俺のこと気にするような女でもねぇし、沙雪にとっちゃあ空気みたいなもんで、俺を男として意識したことなんて一度だってねえだろうな。別にそれでも構わない、沙雪が俺の傍にいて俺だけのもんでいてくれりゃ何だっていいって、そう思っていた。

 男女問わず、沙雪に好意を持って近づこうとする奴は片っ端から排除した。沙雪自身も馴れ合うタイプでもねえし、「うちには琢矢がいるから別に寂しくないしね~」そう言ったから俺は遠慮なく沙雪から全てを遠ざけた。

 それが崩れ始めたのは中学に入ってすぐの頃。なぜか平田に興味を持ち始めた沙雪、思い返してみても別にきっかけがあったわけではない。


「ねえ、琢矢」
「ん?」
「あの子、めっちゃレベル高くね?」
「そうか? 知らん」
「おまえ女に興味なさすぎんでしょ」
「知らん」


 沙雪はそれからちょくちょく平田を話題に出してきた。「あの子さ、目が合わない子って言われてるらしいよ」「あの子ぜったいモテるよね」「あの子の幼なじみの男、あれやばくね? うちらと同類な予感」……そんなことを言っては、「まあ、あの子周りから頼られてるっぽいし、うちとは住む世界が違うよねぇ。うちみたいなのと関わるのはよろしくないか~」と静観するだけだった……あの日、平田が声をかけてくるまでは──。

 平田と関わるようになってから沙雪は毎日が楽しそうで、俺じゃ役不足だったと現実を突きつけられる。ちっせぇ頃からずっと一緒にいたのにな。

「お前、腹出すぎ」
「年頃のレディ~に失礼なこと言うなし」
「どこに女がいんだよ」
「いるだろ、ここに~」

 俺は激重執着男(細谷)とは違ぇ。沙雪が笑って楽しく過ごせてりゃなんだっていい。それを近くで見守っていられるのなら、それだけで。

「……なあ、沙雪」
「んあ~?」
「幸せか?」

 お前を幸せにするのが俺じゃなくてもいい……なんて綺麗事を言うつもりはねえ。だが、沙雪を幸せにしてやれるのが俺の他にいてもいい……女に限るけどな。

「そりゃ幸せに決まってんでしょ~」

 お前が幸せならそれで。

「そうか」

 俺は満たされる。
 
「それにしても友紀大丈夫かなぁ」
「大丈夫だろ」
「細谷が信用ならん、激重執着男ほど怖いもんなくね~?」

 まぁ俺も大概だけどな、お前が気づいてないだけで。

「俺が激重執着男だったらお前どうする」
「琢矢が~? いやぁ、ないでしょ。あんたそういうタイプじゃないじゃん。「クールでかっこいい♡」とか言われてんのまじ笑う~」
「うぜえ」
「琢矢って誰にでも冷たいよね~」

 激重執着男みたく自分を偽ってるわけじゃねえが、沙雪にはどうも伝わんねぇんだよなぁ……まあ、言葉で伝えなきゃ伝えてねえとの一緒か。

「お前に冷たくした覚えはない」
「なに、拗ねてんの~? ムスッとしちゃって」
「うぜえ」
「なっ、ちょっ!? 重っ! 乗んなし!」

 沙雪の上に覆い被さっても、沙雪は邪魔くせえとしか思ってねぇだろうな。

「お前ヨギボーだろ、大人しく乗られてろよ」
「デブだって言いたいわけ? ボコボコにされたくなきゃどけ」
「やれるもんならどうぞー」
「うざ!」

 沙雪は知らねぇだろうな。触れ合いたいがために俺がこうやって煽ってるってことを──。
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