幼なじみの心は読めない、はずだったのに!
きっかけは突然で 平田友紀 視点
「てことで、学校終わったらゲーセン行かない!?」
「ゲーセンかよ」
「どうしても欲しいフィギアがあんの!」
「オタクが」
「オタク馬鹿にすんなし!」
「してねえ、お前を馬鹿にしてんだ」
お似合いだなぁ、沙雪ちゃんと琢矢くん。付き合ったりは……ないよね、幼なじみだもん。私と郁雄が付き合うみたいな感じでしょ? いやいや、ないない、それはない。
「ゲーセンいいね! 久々にUFOキャッチャーやりたいかも!」
「友紀ちゃん絶望的にUFOキャッチャー下手じゃ~ん」
はい、そのとおりで。景品を取れたためしがない。ムキになってつづけようとする私を止めてくれるのは郁雄で、私が苦戦してた景品を1発で取っちゃうのが私の郁雄である。とろくさい以外は本当にパーフェクトな男子。
「んじゃ、ゲーセン決定ね~!」
教室へ戻るまで沙雪ちゃんと琢矢くんの瞳を見ないよう、すれ違う人達とも視線を合わせないように気をつけて、時々郁雄と目が合っては平和な心の声を聞いて『ああ、やっぱ郁雄はゆるふわしてるわ~』と癒される。でも、どれだけ気をつけていても視線が合ってしまうことなんてしょっちゅうで……。
「(うわっ♡琢矢くんと郁雄くんめちゃかっこいい♡で、隣にいるのはもちろんヤンキーちゃんと目が合わないシャイガールちゃんね~。別に男子が騒ぐほど可愛くも綺麗でもなくなぁい? 雰囲気美人ってだけでしょ。全然たいしたことないじゃん)」
ヤンキーちゃんと目が合わないシャイガールちゃんって、まあ沙雪ちゃんと私のことだよね。沙雪ちゃんも私も幼なじみのルックスが抜群すぎちゃって、ある意味大変というか妬まれることが多いというか……ただの幼なじみってだけなのにそんな敵意を向けられてもぉ、というのが本音。
「しっかし友紀とこんっな仲良くなるとは思わなかったよね~! もうマブじゃん? うちら!」
「仲いいと思ってんのお前だけじゃね?」
「いや、それはさすがに泣く」
この2人とこうやって喋るような仲になったきっかけは、新学期初日のことだった。新学期早々に私と郁雄は喧嘩……というか、かくかくしかじかで私が一方的に怒ってて、こうなったら意地でも口を利かないし、一緒に行動もしないっていうのを郁雄が一番よく分かっているから、あの日は別行動をしていた──。
「ほんっと最悪!」
最近ハマってる俳優の主演ドラマ、めちゃくちゃ楽しみにしてたのに郁雄が適当にリモコンをいじったせいで録画が消えた(ちなみに見逃し配信とかないドラマだからテレビ放送で観るしかないやつ)。そんなことをした挙げ句、私のケーキを勝手に食べた幼なじみに怒り心頭中なのです。
「しばらく口利いてやんないんだから!」
ひとりで怒りながら正門に向かっていた時、前を歩いている女子の鞄からキーホルダーがぽろっと落ちてしまった。
「あ」
落とした本人は全く気づいていない。隣を歩いている男子も気づいていない様子。私は小走りしてそのキーホルダーを拾い上げ、声かけた。
「あの!」
2人が振り向いた瞬間、同じクラスの宇野和さんと安曇くんだとすぐに分かった。心の声を勝手に聞いてしまわないよう少し視線を外す。
「誰だ? この女」
「言い方よ。あ! ほら同クラの! 例のあの子じゃん!」
「ああ」
『例のあの子』……か。あまりよく思われてないんだろうな。キーホルダー渡してささっと帰ろう。
「これ、宇野和さんのキーホルダーだよね?」
「落としてた!? うわぁまじさんきゅー! これめっちゃ大切なやつなんだよね!」
「そっか、拾えてよかった」
「神かよ! てかさ、なんて呼べばいい!? 前々から気にはなってたんだよね! コミュ障ってわけでもなさそうなのになぁーんで“目が合わない子”とか言われてんだろう? ってさ!」
「お前デリカシーなさすぎだろ、引くわ」
こんなストレートに聞かれたことが初めてで、私は思わず宇野和さんの瞳を見てしまった。
「(ラッキーラッキー! これ仲良くなるきっかけになんじゃね!? )」
宇野和さんはなんで私と仲良くなりたいって思ってくれてるんだろう。
「ほら、うちだってビッチだのギャルだのヤンキーだのテキトー言われてんじゃん? 目が合わない子~とか気にする必要なくね~? ちなみにうちのことは沙雪でいいよ!」
「あ、えっと……なら沙雪ちゃんで」
「ちゃん付け~? かたっくるしっ! うちは友紀って呼ばせてもらうから~!」
とまあ、こんな経緯があって最近は4人でいることも増えてきた。
心の声が聞こえてしまうせいで人に深入りすることが怖くて、そんな私だから周りも深い入りしようとはしてこなかった。傍から見たら仲のいいクラスメイトだけど、それはただの上辺だけな付き合い。けれど、私にとってその上辺だけの付き合いが心地よかったりもするの。
沙雪ちゃんは私からすると少し脅威でもある。特別を作ってしまうと、失うのが怖くなってしまう。こんな気持ち悪い能力を持っていると沙雪ちゃんが知ったらきっと── 私から離れていくだろうから。