かりそめ婚は突然に 〜摩天楼Love Story〜
彼のような知的エリートと会話が成り立つんだろうか、というのが結婚の不安要素の一つだった。
透さんが合わせてくれているのか、日常のやり取りではそこまで齟齬(そご)は感じずにいられる。

たとえば世界の政治経済の動勢や、それが市場にもたらす影響についてなどを語るのは、逆立ちしても無理だけど。
透さんも食卓でそんな話題を出す気はないようだ。そういった議論は仕事や会食の席で散々やっているのだろう。

近々弟がこっちに来るらしいと透さんが口にしたのは、食事が終わるころだった。
食後はコーヒーを淹れようか、それとも日本茶がいいだろうかなんて考えていたわたしは「え?」と聞き返してしまった。

「弟の(かい)だよ。ニューヨークの大学に講義を受けてみたい教授がいる、なんてメッセージをよこした」

久我家は男子ばかり三人兄弟なのだ。
長男(いたる)、次男(とおる)、三男(かい)、と名前は共通して漢字一文字だ。

三男は二十四歳で長兄とは九歳、透さんとは四歳年が離れている。
イギリスのボーディングスクールを卒業し、一年のギャップイヤー(大学入学前に一時的に学業から離れ社会体験をする期間)を経て、ロンドンにある国立大学の大学院に在学中だ。
工学部で量子コンピューターの研究に応用可能な技術を学んでいるらしい。
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