推しに告白(嘘)されまして。
ここから沢村くんまで結構距離がある。
未だに沢村くんは部員たちと談笑中で、声をかけづらい状況だ。
どうやって声をかけよう?と、沢村くんに声をかける方法を模索していると、たまたま沢村くんと目が合った。
私と目の合った沢村くんは一瞬、「あ」という表情になり、嬉しそうに目を細める。
それから周りの部員たちに声をかけ、何とこちらにわざわざ駆け寄ってきてくれた。
「鉄崎さん、今日はありがとう。ちょっとあっちで話さない?」
いきなり目の前まで迫ってきた推し。
何と眩しく、尊い存在なのだろうか。
「…う、うん」
私は早鐘のように鳴る心臓を何とか押さえて、沢村くんに頷いた。
*****
沢村くんと2人でやってきたのは、体育館の裏口の外だった。
そこには誰もおらず、私たちだけで。
私たちは扉の前にある三段くらいの小さな階段に腰を下ろし、肩が触れそうな距離にいた。
「…沢村くん。今日は誘ってくれて本当にありがとう。すごかったし、かっこよかったし、最高だった。試合も面白くてずっと観ていられたよ。バスケって面白いね」
私の隣にいる沢村くんに、精一杯の感謝と感動を伝える。
語彙力がないせいで、上手く伝わっているかわからないが、この感動を伝えずにはいられない。
「最後の沢村くんのシュートも印象的でよかったけど、ずっとチームの中心でプレーしてた沢村くんが本当にかっこよくて、うちのエースなんだなぁ、て思ってさ。何が言いたいかというと、つまり沢村くんはすごくてかっこいいっていうことで…」
はっ!待って!喋りすぎているのでは!?
話し出すと止まらず、ついつい笑顔で喋り続けてしまっている現状に気がつき、一気に血の気が引いていく。
沢村くんに引かれていないか、恐る恐る改めて沢村くんを見てみると、沢村くんはとても嬉しそうにこちらを見ていた。
…あれ?引かれていない?
それとも「ちょっと喋りすぎじゃない?」とか思っているけど、笑顔で隠している?
いやいやいや。あの沢村くんがそんなこと思うわけないじゃん。笑顔で本音を隠すわけないじゃん。
…でも優しいから優しい嘘をついている可能性はあるかも。