推しに告白(嘘)されまして。
観客席の真ん中辺りで、心配そうに、けれど、応援するように優しい瞳で、私を見る悠里くんと目が合う。
期待の眼差しの中で、悠里くんの瞳だけは、私を案じていた。
なんて優しくて、心地のいい視線なのだろうか。
私と目が合ったことに気がついた悠里くんは、口パクで何かを言っていた。
きっと頑張れ、と私に激励を贈ってくれいてるのだろう。
推しが応援してくれている。
やれる。やれるよ。
足に絡まっていた緊張のツルがするすると取れていく。
私は先ほどとは違い、軽くなった足で、ついに千晴の元へと辿り着いた。
あとは台本通り動くだけだ。
まずは観客に背を向けて、私は両膝をつくと、千晴が眠っている棺桶を覗き込んだ。
「お姫様は白雪王子を見て思いました。何と、美しい方なのだろう、と」
ナレーションは止まることなく、予定通り進んでいく。
そのナレーションに合わせて、改めて、私はじっと千晴を見た。
色とりどりの花に囲まれて眠る千晴は、どこか幻想的で儚かった。
正直棺桶内は観客席からはあまり見えない。
ここまで精巧に作られているのは、きっとクラスメイトたちの趣味からなのだろう。
長いまつ毛が白い肌に影を落とし、その可憐さに拍車をかけている。
相変わらず、黙ってさえいれば、美しい子だと思う。
千晴の美しさに見惚れながらも、私は練習通り、棺桶の蓋に手を置いた。
それからゆっくりと、千晴に顔を近づけた。
キスをするフリをするだけ。
わかっているのに、心臓が早鐘を打つ。
どんどんそれはスピードをあげ、今にも壊れてしまいそうだ。
照れることはない。これは演技だ。
そう言い聞かせて、目を閉じた。
頬に熱を感じながら。
「そしてお姫様は白雪王子にキスを落としました」
ナレーションに合わせて、キスをするフリをし終え、ゆっくりと顔をあげる。
正直、観客に背を向ける体勢で良かったと、心の底から思う。
きっと今の私の顔は真っ赤で、人様には見せられない。