推しに告白(嘘)されまして。
千晴が笑っただけなのに、どうしてこんなにも嬉しい、と思えてしまうのか。
今日一日、ずっとこんな動悸に襲われていたが、これは何かへの不安でも緊張でもないのだろうか。
…まさか、病気?
わけのわからない感覚に頭を悩まされていると、突然、千晴が椅子から立ち、私との距離を詰めた。
千晴の顔に長いまつ毛が影を落としている。
そう思った、次の瞬間。
千晴は私の唇のすぐ横に自身の唇を落としていた。
チュッと音を立てて、千晴の顔がゆっくりと私から離れる。
またあの文化祭の時と同じ、柔らかい感触だ。
急な出来事に私は何もできず、ただただ固まっていた。
「な、へ、え」
何度も何度もぱちぱちとまばたきをし、状況を何とか飲み込もうとする。
え、今、私は、な、何された?
唇が触れた?私の唇の横に?
え、唇が触れた?
…キス?接吻?kiss?
「な、な、な、なんで!?」
やっと状況を理解した私は、顔を真っ赤にして、千晴に叫んだ。
そんな私に千晴は「かわいい、先輩」と、とても楽しそうだ。
「先輩のそこにチョコがついてたから取ったんだよ。美味しいね、このチョコ」
私の唇辺りを指差し、悪びれる様子もなく、千晴は笑う。
その様子に私の中の何かが、ブチン!と切れた。
「だったら口で取るな!手で取れ!」
「えぇ。だってチョコだし、食べたいじゃん?」
「手で取った後に食べればいいでしょう!?」
「先輩から食べたかったんだもん」
鬼の形相で怒鳴る私に、千晴は何故かとても楽しそうだ。
ふざけた態度を取り続ける千晴に、「この野郎!」と怒りの感情が湧くが、それでも嫌いにはやっぱりなれなかった。
この生意気で、マイペースな後輩を私は何故か好意的に思えていた。
顔を真っ赤にして怒鳴る私に、楽しそうに笑う千晴。
私たち2人のやり取りに千夏ちゃんは満足げに微笑んだ。
「やっぱり、2人は未来のラブラブおしどり夫婦。完璧な2人だわ。…ただ、沢村悠里、彼だけが唯一の欠点ね。あのお義姉様の浮気癖、どうにか治さないと…。いくら言ってもダメな時は、沢村悠里を愛人枠として許すしかないのかしら…」
ぶつぶつと千夏ちゃんが何か呟いていたが、それは私の怒号によって、かき消され、私の元までは届かなかった。