推しに告白(嘘)されまして。
「…んん!ごめん。ここにはないんだよね、チョコ」
表ではいつも通りを装っていたが、内心お祭り騒ぎだった自分を一度咳払いで落ち着かせ、申し訳なさそうに悠里くんを見る。
すると悠里くんは「…え」と短く呟いた。
ショックを受けたような表情で。
「…俺がいっぱいチョコ貰ってるから、柚子のはいらないって思っちゃったの?それで誰かにあげちゃった?」
辛そうに眉を下げ、悠里くんが私に問い詰める。
どこか仄暗い気もする悠里くんの瞳に私は慌てて首を横に振った。
「違う違う!全然違うよ!」
明らかに傷ついている様子の悠里くんに、胸が痛くなる。
これは言葉足らずな私が全面的に悪い。
「悠里くんの荷物になると思って持って来てないだけだよ。ちゃんとバレンタインチョコ作ったし、しかもすごいクオリティになったんだよ?もうお店レベルだから。だから学校には持って来ずに、悠里くんの家に直接届けようと思ってたの」
「そっか…」
私の必死の弁明に、悠里くんが納得したように頷く。
それから一度視線を伏せ、少し考えてからまた視線を上げ、こちらを見た。
「それ今から俺が取りに行ってもいい?柚子の家に」
伺うようにこちらを覗く悠里くんに、ぎゅう、と心臓を鷲掴みにされる。
か、可愛い!
何でも言うことを聞きたくなっちゃう!
思わず勢いそのままに首を縦に振りそうになったが、私はそこで、ハッとした。
悠里くんが私に言った言葉は、〝我が家にチョコを取りに行ってもいいか?〟というものだ。
そんなこと絶対にダメに決まっているではないか。
推しの足を煩わせるわけにはいかない。
私が直接悠里くんのお宅へ行くべきだ。