推しに告白(嘘)されまして。




「千晴、傘忘れたの?」



私の突然の問いかけに、千晴は一瞬だけキョトンとした。
そして少し考える素振りを見せ、「うん」と、無表情に頷いた。

どうやら千晴も私と同じらしい。
お気の毒に。



「傘なら職員室に行けばあるよ」



おそらく傘がなく、困っているであろう千晴に、同情しつつも、そう伝える。
しかし千晴はゆるゆると首を横に振った。



「なかった。傘」

「え、でも…」



そんなはずは…と、一瞬思うが、もしかすると本当になかったのかもしれないと思い、言葉を一旦止める。
私のように天気予報を見ずに登校し、制服ではなく、体操服で、1日を過ごす生徒を、私は今日、何人も見てきた。
さらに私が傘を借りに行った時も、何人かの生徒が傘を借りていた。
タイミングが悪ければ、千晴の主張通り、傘はもうなかったのかもしれない。

少し考えて、私は千晴の主張を信じることにした。



「そっか…。じゃあ…」



千晴を自然と私の傘に入れようとしたところで、私はハッとし、止まる。
今、千晴を私の傘に入れるということは、相合傘をするということだ。
千晴は私のただの後輩であり、彼氏でもなんでもない。
全く意識する相手ではないのだが、相合傘をしている私を見て、周りの生徒たちはどう思うだろうか。

ただでさえ、不名誉な疑惑をかけられているというのに、私が気にしていないからと、そういった行動をしてしまっては、その疑惑を払拭することはできない。
田中にも私の考えなしの行動を怒られたばかりだ。

私は言いかけた言葉をグッと飲んで、千晴から視線を逸らした。
それから、バサッと傘を広げた。



「…雨、今日はもう止まないらしいから、誰かの傘に入れてもらうとか、傘持って来てもらうとかした方がいいよ。それじゃあ…」



困っている千晴を放置することは、少々胸が痛むが、淡々とそう言って、この場からさっさと離れようとする。
…が、そんな私の体操服の袖を千晴がグッと掴んだことによって、私の足はその場から動けなくなった。

な、何…?

私を引き止める千晴のその手に罪悪感が押し寄せる。



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