推しに告白(嘘)されまして。
悠里くんはいつも私に笑いかけてくれる。
優しく、穏やかに。時には悪戯っぽく。
そんな様々な笑顔の中に、最近はどこか仄暗い気がするものもあった。
その笑顔に気づくたびに、これで本当にいいのか、と自問自答を繰り返した。
悠里くんが浮かべるあの笑顔は、私が願う悠里くんの心からの笑顔なのだろうか。
やはり別れるべきでは。
そう何度も何度も思った。
だが、傷つきながらも私と付き合うことを望む悠里くんを、私は突き放せなかった。
そして二つ目の悩みは千晴だ。
私は千晴が好きだ。
悠里くんとはまた違う、異性へ向ける好意を私は千晴に抱いている。
何故ただの後輩だった千晴にこんな感情を抱いてしまっているのか、正直わからない。
だが、千晴に告白されて、キスされて、悠里くんとは違う胸のざわめきに、恋を自覚した。
手のかかるところもあるが、憎めない。
マイペースで自分勝手だが、愛さずにはいられない。
まっすぐで自分に正直で実はこちらをよく見て行動ができて。
いいところもたくさんある後輩。
千晴のことを想うと胸が焦がれるように熱くなり、会いたい、と思う。
千晴に告白されたあの日、不意に奪われた唇の熱がふとした瞬間に蘇る。
それでも私は千晴を振った。
理由は簡単だ。
私が悠里くんの彼女だからだ。
どんなに千晴を想っていても、千晴に私は応えられない。
もちろん、私も千晴が好きだとは伝えていないし、そんな素振りも見せていない。
こんな私なんてさっさと諦めて、次にいけるようにしっかりと千晴からの告白を拒否した。
…が、千晴は特に気にすることなく、その瞳を細め、私に言った。
『俺は先輩しか好きになれない。だから諦めない』と。
悠里くんと千晴。
私は二人を弄ぶ最低な女になってしまった。
生徒会長、田中の懸念は見事に的中してしまったのだ。
千晴を想いながら悠里くんと付き合い、両想いなはずの千晴に応えない。
最低だ、私。
そしてとんでもないことに、この一泊二日の合宿に、何故かスポーツ科で部活が忙しいであろう悠里くんと、絶対に参加しなさそうな千晴が二人揃って参加していた。
二人の姿がどうしても交互に目に入り、罪悪感でもう私のHPはゼロだ。
勉強よりも罪悪感で疲れ切った私を、休憩時間にここへ連れ出してくれたのは、雪乃だった。