推しに告白(嘘)されまして。



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すっかり暗くなり、星が瞬き出した頃。
カレーを完成させた生徒たちは調理室のすぐ隣にある食堂でそれを美味しそうに食べていた。
ここの食堂には、何百人もの人が一斉に使えるだけの長机と椅子がずらりと並べられている。

そこで私は1人で夕食を食べていた。
私の周りにはまるで私を避けるように誰も座っていない。
本当は雪乃と一緒に食べる予定だったが、同じくここで合宿をしていた他校のイケメンといい感じになったらしく、攻め時ということで、雪乃はそのイケメンと夕食を共にしていた。

まあ、よくあることなので、あまり気にならないし、雪乃らしくて、逆に安心するが。

一生懸命水の量を測り、カレールーを割り入れ、調理器具を洗った…一応私も調理に参加した目の前のカレーを、私はじっと見つめる。

うちの班の手伝いをする、とこちらに来た千晴は、驚くことに本当によく動いていた。

私が水を測っている時は、先のことを考え、鍋を用意し、すぐに入れられるようにしてくれていたし、カレールーを入れる時も、入れるタイミングを私に教えて、混ぜる作業は千晴がしてくれた。
洗い物の時も積極的に手伝ってくれ、千晴のおかげでかなり手際よく作業を進められた。

時々暇を持て余し、私の髪や手で遊んでみたり、変に私に甘えてきて困ったりもしたが、それでも千晴はよく働いてくれていた。

意外だった千晴のことを考えながらも、おぼんにちょこんと置かれたスプーンに手を伸ばした、その時。

私の右隣に自然な流れで千晴が座ってきた。

コトンッと机に置かれたおぼんの上には、もちろんカレーがある。
千晴が食べるカレーは私と一緒に作ったカレーだ。

千晴だ…と、右隣に気を取られていると、左隣からもコトンッとおぼんの置かれた音がした。

一体、誰だろう、と千晴から今度は左隣へと視線を移す。
するとそこには悠里くんが座っていた。

私と目が合い、悠里くんが優しく微笑む。

悠里くんだ…。え。

悠里くんに一度ぎこちなく微笑み、今度は前を向く。
そして私は両隣に感じる気配に、ぐるぐると思考を巡らせた。

右隣に異性として好きだと思っている千晴がいる。
左隣に推しとして好きだと思っている悠里くんがいる。

え、修羅場じゃん。
しかもこの二人相性最悪じゃん。

悠里くん、私、千晴。
突然、始まってしまった非常に気まずい夕食に、私は冷や汗を浮かべた。



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