推しに告白(嘘)されまして。




すぐそこにいる推しという存在が、私の心臓を忙しなくさせる。
この距離の近さなら、このおかしくなった鼓動の音が悠里くんにも聞こえてしまいそうだ。
そう思うと気が気ではない。

このままではいけない、と落ち着くためにも、一度視線を伏せ、ゆっくりと深呼吸をしていると、その声は聞こえてきた。



「困ったときはいつでも頼って?俺は柚子の彼氏なんだから」



聞こえてきた声に、私はまた視線を上げる。

優しい言葉に、柔らかい瞳。
いつもと同じはずなのに、その瞳の奥はやはりどこか仄暗い。
本当に時折、悠里くんはこんな目で私を見る。
どこか苦しそうなその目の原因を、私は薄々わかっていた。

悠里くんは私が自分と同じ気持ちを抱いていないことを知っている。
それでも、私と付き合い続けることを選んでくれた。

傷つきながらも私と一緒にいたい、と。
違う好きでも互いに想い合っていることに変わりない、と。
だが、きっと、それが悠里くんには辛いのだ。

よく私は考える。
もし、悠里くんと私が逆の立場だったら、と。
同じ想いを抱いてくれていない恋人の存在は、想像するだけで、胸が苦しくなる。
悠里くんはきっと、私が思っている以上に辛くて、苦しい。

けれど、私は悠里くんと同じ想いを悠里くんにはあげられない。
千晴を好きになってしまったから。


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