推しに告白(嘘)されまして。
20.それぞれの愛のかたちと終着点。

1.言えなかった言葉 side悠里




side悠里



自分が柚子に対して、ひどいことをしていることはわかっている。
柚子を苦しめていることも。
それでも、俺は柚子を手放せない。

食器を片付けていた柚子と別れた後、俺は施設内にあるお風呂に入った。
そして、そこでゆっくりした後、自分たちの部屋へ戻るために、今は廊下を1人で歩いていた。

何をしていても、俺の頭の中に柚子の姿が浮かぶ。

食器棚を背に、こちらを潤んだ瞳で見上げる柚子。
まるでりんごのように頬を赤く染めるその色は、俺への恋心で染められたものではない。
単純に憧れの相手に迫られてそうなっているものだ。
そうわかっているはずなのに、その赤に胸がどうしても高鳴る。

柚子は自分の感情をもうきちんと理解していた。
完全にわかった上で、何も知らなかった頃と変わらない反応をし、その後に苦しそうに一度俺から視線を逸らす。
以前までなかったその仕草に、俺は仄暗い感情を抱いた。

何で俺から視線を逸らすの。
逸らさないで。俺を見て。
この地獄を選んだのは俺なのだから。

わかってる。
わかってるんだ。
例え俺が選んだ道でも、柚子なら自分が悪いと自分を責める性格だと。

柚子はきっと思っているのだろう。
同じ気持ちを返せない自分に、俺がずっと傷ついている、と。
間違いではない、だが、正解でもない。



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