推しに告白(嘘)されまして。



聞こえてきた愛おしい声に、自然と体温が上がる。
ゆっくりと声の方へと振り向くと、そこには大きめの白のダウンをパツパツにさせ、首にベージュのふわふわのマフラーをぐるぐる巻きにしている柚子が立っていた。

肌寒いのはわかるのだが、過剰な防寒対策をし、もこもこになっている柚子の姿が、愛らしいがおかしくてつい口元が緩んでしまう。

まるで冬毛のスズメのようだ。

俺を見て、柚子は一瞬笑顔を見せたが、すぐにその笑顔を消し、珍しく俺に怪訝な顔を向けた。
それから俺を頭からつま先まで見ると、慌てて駆け寄ってきた。



「な、何でそんな薄着なの!?風邪引くよ!?」



パツパツになっていたダウンを柚子は急いで脱いで、それを俺の肩にかける。
ダウンを脱いでも柚子の格好はもこもこのボアジャケットで暖かそうだ。
柚子のダウンがパツパツになっていた理由は、どうやらあのボアジャケットを着ていたかららしい。



「俺はこのままでも全然大丈夫だよ。だからこれは…」



確かに柚子に比べれば随分薄い格好をしているが、問題ないので、柚子にダウンを返そうとする。
しかし、柚子は厳しい顔で首を横に振った。



「大丈夫じゃない。ここ、本当に寒いから。油断は禁物だよ」



真剣な表情で柚子に両肩を抑えられて、俺は動けなくなる。
もちろん力ずくでどうにでもなるが、柚子の意思に逆らってまでどうにかしたいとは思わない。

こちらを真面目な表情でじっと見つめる柚子に、俺は無言でとりあえず頷き、柚子のダウンを羽織ることにした。



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