彼女はエリート外交官の求愛から逃れられない
 お母さんは震えだしたが、先生が呼吸を促した。すると徐々にまた落ち着いてきた。

「もう大丈夫ですね?さあ、琴乃さんが勇気を出すからお母さんも勇気を出して聞いてあげましょう」

 先生が手紙を出した。

「蔵原さん。この手紙を読んで下さい。大変失礼ですが、蔵原さんの安全の為に僕が先に目を通させてもらいました」

 そう言うと、お母さんに玲さんの手紙を渡した。お母さんは手紙を受け取ると、震える手で開いて読み始めた。

 私はお母さんの側に行って、背中を支えた。

「信じられないわ……」

「蔵原さんが信じられなくてもそれが真実なんですよ。お嬢さんの気持ちを聞いてあげましょう」

「お母さん。心配してくれる気持ちはわかるわ。でも、私は彼と一緒にいたい。彼以上の男性なんて一生巡り合えないし、彼を忘れられないのはこの一年でよくわかったからなの。あの時、勝手に別れを告げて逃げたのに、玲さんは私を探してやり直そうと言ってくれた。もう後悔したくない。彼を悲しませるのも嫌……」

「琴乃……」

「この手紙に真実が書いてある。ねえ、お母さん。お母さんがよくなるまで私は側にいる。彼はしばらく日本勤務なの。今後もし、海外に行くなら家族で話し合うつもりよ。弦也の側にお母さんが残るか、私と一緒に来るか、その時の状況で選択してほしい」

「先生までぐるになって私をひとりにするのね」

「蔵原さん。そんなわけないのはわかっているでしょう?」

「先生……」

「不安はリハビリで改善します。ご主人の事故も偶然で、必然ではありません。蔵原さん。私を信じて心のケアとリハビリをはじめてみませんか?」

 その日からお母さんは変わって行った。
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