夜を導く光、それは赤い極道でした。
Lux9:裏の人間

【第1話】補色と背徳のアイスクリーム



 泣いていたのは、王子様だった。
 強くあるために、涙は隠されていた。

 誰も知らない弱さを抱えながら、
 それでも前を向き歩くことを選んだ。

 守りたいものは何か――
 その答えは、まだ遠く霞んでいる。

 それでも、
 その涙は決して、無駄じゃない。

 傷つくことを恐れずに、
 立ち上がる勇気の証だから。

 さあ、物語は今、始まる。
 ──強さと弱さが交差する場所へ。

 ────
 

 
「見てください!こんなに高くなりましたよ!」

 4人はカラオケにきていた。千代子が車を走らせて、そのまま近くの駐車場に停めて店の中へ。ドリンクやらを入れてから部屋へ行く時に、さっそくソフトクリームに手を出す澪。

 キラキラした顔で3人に見せる姿は正に子どもだった。

「澪ちゃん、それは盛りすぎじゃない?」

「あなたこんな夜中にそんなもの食べてたら顔中ニキビだらけよ」

 千代子と栞の言い方に差異はあれど、両者ともやりすぎではという気持ちを示している。澪は「えー?」という反応をするだけでやめようという気はない。

「甘いで澪。ただ皿にソフトクリーム盛ってるだけなんは、にわかや」

「と、言いますと?」

「本物は、こうするんや!」

 凛はドリンクのグラスにファンタメロンを注ぎその上にソフトクリームを盛った。それを目にした澪は「おお!」と大興奮。

「これは!伝説の飲み物!メロンクリームソーダ!」

「せやで。あーでも、惜しいな。ここに赤のさくらんぼがあれば完璧やったんに」

「確かに、乗ってるイメージです。でもそもそもなんで、さくらんぼなんでしょうね」

「美味しいからじゃない?」

「違うわよ。商品のバランスよ。赤いさくらんぼを乗せた方が映えるから」

 澪や千代子の疑問に栞が答えると、3人は感心したように頷いた。

「へぇ、そう言われれば綺麗ですね」

 ワイワイと話をしながら4人は部屋へと入り、ソファーへ腰掛ける。歌うというよりは、話す目的だった為、凛が適当なBGM代わりの曲を流していく。

「あーこれ、なっつ。よぉ聞いとったわ」

「このグループ解散するらしいわ」

「ほんま?えーめっちゃショック」

 凛と千代子に選曲を任せて澪は目の前のアイスに夢中になった。夜に食べるアイスは格別においしい。恍惚とした表情で澪はため息を吐く。

「これが背徳の味」

「何言ってるのよ」

「栞さんもどうです?解放された気分になりますよ」

「いらない」

「そういえば、先程映えるためにメロンソーダには赤いさくらんぼが乗ってると言ってましたね」

「だから?」

「どうして、その色だったんでしょう?」

 何気なく思ったことを栞に問いかける。それは、澪にしてみればただの世間話。ふとした疑問。

 しかし、栞の返答を聞いた瞬間。澪は目を見開いた。


 
「緑の補色は赤だから」

「補色、ですか」

「互いに補い合い引き立て合う。だから、選ばれる」

「それは、反対も?」

「もちろん」

「じゃあ、赤の補色は緑……」

 澪は呟く。栞は不思議そうに眉根を寄せて「ああ……」と何かに気づきアイスティーを手に取った。

「そういえば、あなたの髪色は少し緑がかった黒よね」

「澪ちゃんの服も緑色だしね」

「なんや澪。緑好きなんか?」

「そうですね、自然と手を伸ばしてます」

「ほんなら、緑は澪の色やな」

 栞だけでなく、曲を入れ終わった2人も話に加わる。澪は自分の話題になっているが、頭の中では別のことを考えていた。

 栞が言った補色の話。緑が自分の色だというならば補色の赤はきっと……

 

「澪、アイス溶けてんで」

「……え、あ!」

 少しぼんやりしていた為に指先を伝った甘い雫に、澪は現実へ引き戻された。慌てて舐めれば、その様子を見ていた栞と凛に呆れられた。千代子は呆れ顔ではなく、ニコニコとしている。

「そういう時はペーパーで拭くんやで。そっちのが品がええからな」

「舐めるなんて、子どもじゃないんだから」

「澪ちゃんは、まだまだ子どもよね」

「将来有望なチャイルドです」

「千代ちゃん、甘やかしすぎやでほんま」

「可愛いから仕方がないわ」

「可愛い?うるさいだけでしょ」

「栞さん、酷いです。私こんなにお淑やかなのに」

「どこがよ」

「シンデレラ目指して日々精進しています。まずは歌いながら歩くところから」

「人の部屋の前で叫ぶように歌い出すプリンセスなんて聞いたことない」

「それやそれ!今日の議題はそこやねん!」

 凛が勢いよく切り出し一気に注目を集める。察してる千代子はともかく、急に連れてこられた栞は眉間に皺を寄せた。しかし、そんなものは気にも留めない凛は澪の顔をみて問いかける。

「澪、よぉく考えてみい?今自分何歳や」

「17です」

「やんな?もうこの時点で埋まらない時間が刻まれとんねん」

「ねぇ、なんの話?」

 1人話題についていけない栞がたまらず向かいの千代子に声をかける。難しい顔をする凛とは違い千代子は穏やかな笑みを浮かべたままだ。

「澪ちゃんの王子様の話。一緒にいて楽しくて、助けてくれる人って」

「あなた、あの男が好みなの?確かに仲良さそうだったけど」

 栞も2人と同様に澪の示す王子様を勘違いしたようで、意外という反応みせる。

「仲良しなんは錯覚や。大人やから合わせとるだけやって」

「凛ちゃん、そんなこと言ったら澪ちゃんが悲しむわ」

「いーや、ハッキリ言うで?下手に夢見てた方がショック大きいからな」

 凛は澪を見つめ断言する。その後の声音は真剣だが、同時に切なさを滲ませていた。

「惹かれるのはわかる。でもな、裏の業火は眩しすぎて……焼かれるで」

 

「……そんなに、ダメなんです?」

 3人の話を静かに聞いていた澪は首を傾げる。

「楽しいから、一緒にいれたらと願うのは……いけないことでしたか?」

 好きがどこまでを指しているのか、それは澪にもわからない。けれど楽しい相手と共にいることをこんなにも否定されるのは初めてだった。


 ────


 ねえ、わたしが
 きみに惹かれるのは
 色が似ているからじゃなくて
 反対だったからかもしれない

 眩しすぎる (あか)
 見とれてしまった
 緑のわたしは
 気づかないうちに
 自分の色を、忘れていく


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