夜を導く光、それは赤い極道でした。

【第2話】静かなる脅威


 澪は栞の部屋へと通されて、リビングにあるテーブルへ向かい、椅子へと座らされる。そして栞も向かい側に腰掛けて、姿勢を正して言った。

「……あなたが、あの仮面パーティーに行ったことで、うちの家が面影庵(おもかげあん)との関係を見直すことになったの」

「え、なぜバレてるんです?仮面してましたよ?鴉の。それに行っただけです私は。本当にそれはもうカカシのように立ってただけです」

()()じゃない。あなたは、“誰かに選ばれた”人。それは外交上の“破綻”を意味するの」

 栞の言葉に澪は目を丸くさせた。まさかそこまで既に知られているとは思わなかったからだ。

「どこでバレてるんでしょうね。私はもう、それはもうおとなしくしていましたよ。呼ばれるまでは」

「隙がある人は付け入れられる。常識よ。あなたが注目を浴びた瞬間、注がれたのは視線だけじゃない」

「と、言いますと?」

「銃口よ。いつでも狩れるって思われてるわ」

「ええええ?私、幸運を掴んだだけのハズですが?とんだ不運ではこれ?BIGさんの“運命になろう”って、こういうことです?波瀾万丈すぎません??」

 澪の肩が思わず下がる。その調子が、栞には苛立ちではなく、むしろ不可解なものに映っているようだった。

「あなたがあの男の“お気に入り”になったことが問題なの。どこの誰が、何のために、あなたを見ているか……理解してる?」

 澪は黙り込んだ。その問いの重さは、いつもの調子で返すには重すぎた。

「……つまり、熱烈なファンがついた、と?」

「あなた……本当にブレないのね」

 やはり澪は澪だった。真面目な顔でサラリとズレたことを喋るその口は、もはや才能なのかもしれない。
 そんな澪に栞は大きく息を吐いて、鋭い眼差しを向ける。

「私は、混乱が嫌いなの。どんなに冷酷に思われようと、“秩序”があるから、生き残れるの。……でも」

 栞は、わずかに視線を外して言った。

「あなたを、見捨てたいとも思っていない」

「……栞さん。ツンデレですか?」

 
「ちがうって言ってるでしょ。……ほんとに、油断ならない子」

******

 廊下に出ると、松野がすでに立っていた。澪を見るなり、彼は心配そうな表情を浮かべる。

「澪、大丈夫?」

「私は大丈夫ですが、世間的には大事のようですね」

「それって、いったい何があったの?」

「んーと、栞さんのお家vs.私の後ろ盾?な構図に、面影庵(おもかげあん)が板挟み状態で国際抗争秒読み?」

「ええ!?そうなの!?」

「違うわよ。でも、()()ってだけ。これからの対応と態度によっては、ありえなくないわよ」

 栞が部屋の扉から顔を出し、説明する。松野は少しだけ目を伏せると、ふっと息を吐いた。

「澪がどう見られようと、俺は──守る。それだけは、譲れない」

 その声には、いつもの優しさと──今まで見せたことのない、鋼のような意思が混じっていた。

 そのやりとりを、遠巻きに見ていた栞は、ぴしゃりと言い放った。

「私たちの“立場”、わかってるわよね?」

 松野は、静かに彼女を見返す。

「わかってるよ。……それでも、俺は、どっちも守りたい」

 ──その言葉に、栞の目がわずかに揺れた。

 ……その夜から、“澪”という存在を巡って、世界がまた一歩、深い闇へと進みはじめた。



 ────

 静かに迫る声に、
 心はまだ気づかない。
 世界が目を向けた瞬間、
 その名は──
 孤独の標になる。
 
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