掃除当番の恋 過去編

第4章:ミサンガと、願いのかけ方



バレンタインから数日後。
掃除の時間、美術室の空気は相変わらず静かだった。
でも、何かが少しずつ変わっている。そんな実感が、真の中にあった。

愛花の声が、少しだけ自然に聞こえるようになった。
目が合う回数が増えた。
そして、掃除が終わったあとの時間――
2人でベランダに出るのも、いつの間にか“いつも”になっていた。

その日も同じように、掃除を終えたあと、並んで風に当たっていたとき。

「……はい、これ」

愛花が突然、ポケットから何かを取り出して差し出してきた。

「え?」

手のひらに乗ったのは、青と白の糸で編まれたミサンガだった。

「願いごとを込めて結ぶと、叶ったとき自然に切れるんだって。……ま、迷信だけど」

「これ、作ってくれたんですか?」

「うん。夜、ちょっと時間あって。……“真”って、青が似合いそうだったから」

愛花はそっけない口調で言いながら、視線を空に向けた。

真はミサンガを両手に取って、しばらく黙って眺めた。
手作りとは思えないほど丁寧に編まれていて、ほどよく柔らかい。
気づけば、胸がじんわり熱くなっていた。

「じゃあ……“また、先輩と話せますように”って願いにします」

「は? ばっかじゃないの」

愛花は呆れたように笑った。でもその笑顔は、やわらかくて、どこか嬉しそうだった。

「真ってさ、ほんと……変なとこ、まっすぐなんだよね」

「それしかないんです。僕」

「……なら、そのままでいなよ。いいと思うよ」

その言葉のあと、愛花はそっとミサンガを真の左手首に巻きつけ、
慎重にきゅっと結んだ。

そのとき、真の胸の奥に静かに宿ったのは、
“好き”という言葉では言い切れない、でも確かにそこにある何かだった。

それはたぶん――“想い”だった。
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