掃除当番の恋 過去編
第6章:卒業前、届かない想い
卒業式の前週。
真は、教室の窓際でじっと空を見ていた。
(今日、ちゃんと伝えよう)
そう、決めていた。
掃除当番は、今日が最後。
愛花と同じ空間に立てるのも、たぶん今日が――最後。
何を言えばいいのか、正直まだわからない。
それでも、「ありがとう」だけは言いたかった。
そして、もし言えるなら「好きでした」も。
だけど――
「えっ、マジで熱あるだろ、お前……?」
陽が、真の額に手を当てる。
その手が、やけに冷たく感じた。
頭がぼーっとして、足元がふらつく。
喉も痛い。目も霞む。
(……なんで、今日なんだよ)
ベッドの中、カーテンの隙間から差し込む光が、やけに遠く感じた。
ミサンガを結んだ左手を見つめながら、真は唇を噛んだ。
このまま何も言えずに終わるのは嫌だった。
だから、ノートの端を破って、短い手紙を書いた。
今まで、一緒に掃除してくれてありがとうございました。
先輩と過ごした時間、本当に嬉しかったです。
先輩の笑顔が、ずっと大好きでした。
折りたたんで、封もせず、そのまま陽に託す。
「……頼んだ」
「おう。任せとけ」
その日、掃除の時間。
ベランダには、愛花と陽がいた。
陽は言葉少なに、ポケットから手紙を出して差し出す。
「……これ、真から」
愛花は一瞬だけ目を見開いた。
でも、黙って手紙を受け取り、そっと開いた。
風が、ページをめくるようにゆるやかに吹いた。
字は少し震えていて、でも、真っ直ぐだった。
愛花は読み終えると、しばらく無言で立ち尽くしていた。
そのまま手紙をゆっくり折りたたみ、制服の胸ポケットにしまう。
そして、何も言わず――空を見上げた。
沈黙のなかで、陽がちらりと彼女を見やる。
愛花の髪が、夕陽に照らされてきらめいていた。
(……伝わってるといいな)
陽は、そう思いながら視線をそらした。
その日以降、真と愛花は、顔を合わせていない。
でも、真の左手にはまだ、青と白のミサンガが残っていた。
切れずにいるその糸が、どこかでつながり続けているような、そんな気がしていた。
過去編 … 完
真は、教室の窓際でじっと空を見ていた。
(今日、ちゃんと伝えよう)
そう、決めていた。
掃除当番は、今日が最後。
愛花と同じ空間に立てるのも、たぶん今日が――最後。
何を言えばいいのか、正直まだわからない。
それでも、「ありがとう」だけは言いたかった。
そして、もし言えるなら「好きでした」も。
だけど――
「えっ、マジで熱あるだろ、お前……?」
陽が、真の額に手を当てる。
その手が、やけに冷たく感じた。
頭がぼーっとして、足元がふらつく。
喉も痛い。目も霞む。
(……なんで、今日なんだよ)
ベッドの中、カーテンの隙間から差し込む光が、やけに遠く感じた。
ミサンガを結んだ左手を見つめながら、真は唇を噛んだ。
このまま何も言えずに終わるのは嫌だった。
だから、ノートの端を破って、短い手紙を書いた。
今まで、一緒に掃除してくれてありがとうございました。
先輩と過ごした時間、本当に嬉しかったです。
先輩の笑顔が、ずっと大好きでした。
折りたたんで、封もせず、そのまま陽に託す。
「……頼んだ」
「おう。任せとけ」
その日、掃除の時間。
ベランダには、愛花と陽がいた。
陽は言葉少なに、ポケットから手紙を出して差し出す。
「……これ、真から」
愛花は一瞬だけ目を見開いた。
でも、黙って手紙を受け取り、そっと開いた。
風が、ページをめくるようにゆるやかに吹いた。
字は少し震えていて、でも、真っ直ぐだった。
愛花は読み終えると、しばらく無言で立ち尽くしていた。
そのまま手紙をゆっくり折りたたみ、制服の胸ポケットにしまう。
そして、何も言わず――空を見上げた。
沈黙のなかで、陽がちらりと彼女を見やる。
愛花の髪が、夕陽に照らされてきらめいていた。
(……伝わってるといいな)
陽は、そう思いながら視線をそらした。
その日以降、真と愛花は、顔を合わせていない。
でも、真の左手にはまだ、青と白のミサンガが残っていた。
切れずにいるその糸が、どこかでつながり続けているような、そんな気がしていた。
過去編 … 完