その恋、連載にしてやるよ〜人気作家に溺れていくなんて、聞いてません〜

第1章 それが、最悪の出会いだった

小説を出版したくて、出版社に入ったのは5年前。

一度は就職に失敗して、1年浪人してまで、私はこの会社にしがみついた。

――文学を、言葉を、信じてた。

その気持ちは今も変わらない。けれど。

「ねえ、岸本さん。最近、担当の交代って多くないですか?」

隣の席から、杉本さんが小声で耳打ちしてきた。

彼女は最近デビューした新人作家の担当をしている。

私より2つ下。だけど、もう何冊も本を出させている有能な編集者だ。

「そうですね。やっぱり文庫本の不況が続いてるんですかね」

軽く答えたけど、内心はざわついていた。

時代は、紙よりも電子。

装丁の美しさより、配信スピード。

そして“執筆が早い作家”こそが、生き残る。

――ロマンより、結果。

編集部の空気は、そう言ってるようだった。

「なんかね……来週の全体会議、また大きな人事動くかもって聞きました。」

「……また?」
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