その恋、連載にしてやるよ〜人気作家に溺れていくなんて、聞いてません〜
今の担当作家は、堅実で几帳面だけど、売れ行きは緩やかだ。

だからと言って、簡単に交代なんて――。

そのとき、私の内線が鳴った。

『文芸編集部・岸本さん。編集長がお呼びです。』

受話器を置いた瞬間、杉本さんがこっそりウィンクした。

「……頑張ってくださいね、岸本先輩。」

――嫌な予感しかしない。

編集長室のドアをノックすると、短く「どうぞ。」の声が返ってきた。

中に入ると、編集長はいつものようにソファ席ではなく、資料の山に囲まれたデスクに座っていた。

顔は険しい。会話の途中だったのか、デスクに並ぶタイトル群に目をやりながら、ふうとため息をついた。

「彼女、もっと執筆スピード早くならないかなあ。」

ふと編集長が口にした“彼女”という言葉に、私はすぐ気づいた。

「……綾香先生のことですか?」
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