相棒をS級勇者に奪われた俺、スキル【力の前貸し】で勇者を破滅へ導く!~全てを負債地獄に叩き落とし、新たな魔王として君臨する!

第17話 幕開け

◇リザヤ

《2000魔力《エナジー》の回収が完了しました。基準値を満たしたため、スキルがランク2に上昇します。》
《隷属化した魔物を召喚します》

隷属……?

魔法陣が浮かび上がると、地面から漆黒のオーラを纏ったオークたちが現れた。
そして俺を見た瞬間、目が赤色に変わる。

「........?」

俺の前で次々にひざまずくオーク達。
.....どいういうことなのだろうか。
まず、こいつらは見覚えのある魔物たちばかり。
というか、昨日“前貸し”した連中しかいない。
つまり――

「ステータス」

そう唱えて、確認する。

――――――――――――――――――――
リザヤ
 ・
 ・
 ・
スキル 力の前貸し

 ・
 ・
 ・

ランク2
 ・ サムン
  返済不能により、隷属化した者を召喚。
  分身のように扱える。

 ・ アプレイザル
  対象の魔力、レベル、ステータスを鑑定
  ※複数対象を鑑定する場合はアプレイザルズ
――――――――――――――――――――

やはり、返済できなかった魔物たちが隷属化したのか。

........それにしても、分身というのが引っかかる。
こいつらの見た目は、俺と違うのに。
何か意図があるのか?

「あの、これはいったい...」

桃髪の女が、大きな石を構えていた。
警戒していたのだろう。

「ああ、驚かせて悪かった。こいつらは俺のスキルで召喚した魔物だ」

「えっ?」

目を見開き驚いている。
まあ、魔物が人間に従うなんて信じ難いか。

「アプレイザル」

試しに、召喚以外のスキルも使ってみる。

魔力が視線の先へと流れ、一瞬で跳ね返ってきた。
直後、右目にオークの情報が浮かぶ。

恐らく魔力の行き来によって、相手の情報が得られるのだろう。

―――――――――――――
オークA(隷属化)

Lv1


魔力(エナジー) 15

5大ステータス
攻撃  6
防御  2
魔法  2
魔防  2
速さ  3

ポイント残量
MP12/15
HP12/17

⚠ 隷属化のペナルティ

・主の命令に逆らえない
・得た魔力、MP、HPをすべて主に渡す
・主が死ねば、隷属者も死ぬ

――――――――――――

「……15」

魔力が大きく減少している。
レベルやポイント残量もすべて低下していた。

別の個体はどうだ?

「アプレイザルズ」

B、C、D……と続くオークたちも、同様のステータスだった。
流し見していると――

「!?」

最後の表示に目を見張る。

「魔力一万……?」

――――――――――――
ルーナ

Lv120


魔力(エナジー) 10000

5大ステータス
攻撃  1300
防御  1500
魔法  3000
魔防  3000
速さ  1200

ポイント残量
MP 8/10034
HP 8000/10030

――――――――――――

しかも、この魔力の持ち主には名前があった。

「ルーナ」

その名を口にした瞬間――

ゴロン、と石が転がる。

「それ……私の名前」

振り返ると、女が血相を変えて近づいてきた。

「......まだ教えてないのに」

...魔物ではなく、この女の名前か。

「ステータスを鑑定する能力で、うっかりお前の情報まで見ちまったんだ」

「そうだったんだ。……その“ステータス”って、どこまで分かるの?」

「名前と、魔力とかの能力値くらいだ」

「あはは、良かった。……出自は書かれてなくて」

……彼女の“禁忌”は、ポーションだけじゃなさそうだ。
一万の莫大な魔力も、出自が関係するのかもしれない。

「くぅーっ」

横で風のような音が鳴った。

「……もしかして、腹減った?」

ルーナは赤くなりながら、うなずく。

「じゃあ、飯にするか」

立ち上がり食材を探しに行こうとすると――

「......私も何か手伝うね」

後ろから生気のない声がした。

「無理をしないで寝た方がいい。症状が悪化したくないのなら」

……とはいえ、この森で無防備に眠らせるのも危険だ。

「...そうだ」

こういう時は――

「オークA、オークB」

声をかけると、今まで動かなかった2体が反応した。

「ルーナを護衛しろ」

うなずいた2体が、彼女の側へと向かう。
これで安心して狩りに出られる。

……ついでに他のオークも使うか。

「オークC、オークD。木を伐って薪にしろ」

命じると、2体も即座に作業を始めた。

「……これがサムンの力か」

まるで、もう一人の自分がいるようだった。

細かい指示なしでも、イメージ通りの薪ができていく。
思考を読み取っているかのような動き。

自分の意を完全に反映する存在――
つまり、“分身”を操っているも同然。


「……これは戦術にも応用できそうだな」

別のスキルと組み合わせるとか。
例えば、リース&バンス。
前借りと前貸しの同時発動で、魔力の移し替えが可能な技。
これを分身たちに使うことで、新たな闘い方ができそうだ。


召喚(サムン)をどう使うか。
思案しながら、俺は狩りに出た。

  ▽

「いただきます」

たき火で焼いた肉を、ルーナが頬張る。

「このお肉、とっても美味しい!」

「気に入ったなら何よりだ」

「この焼き加減、一朝一夕で身につく技術じゃないよ。もしかして、小さいころから料理経験があるの?」

「経験というより、毎日やってたな」

「えっ、すごい!」

「いや、仕方なくしてただけだ。孤児だったから生きていく為にな」

「......孤児」

彼女の表情がこわばる。
……しまった、余計なことを言ったか。

「気にするな。俺にとっては、それが普通なんだ」

「……そんなふうに言えるなんて、達観してるなぁ」

「そうか?孤児なんて、世界中にいる。自分だけが特別に不幸ってわけじゃないし」

「それに――」と俺は続ける。

「親がいなくても、この15年なんとか生きてこれたんだ。だから、配慮なんてしなくていい」

「15年って……物心ついた時には、もうひとりだったの?」

「いや、生まれてすぐに両親は死んだ」

「えっ、じゃあ今の年齢って……」

彼女の目が見開かれる。
心底意外そうに、驚いていた。
恐らく大分、歳が上に見られていたに違いない。

「俺、まだ15だぞ。そんなに老けて見えたのか」

「ううんっ!大人っぽいし頼りになるから、年上かなと……」

「年上か...、そういうルーナは幾つなんだ?」

「えっと.....19です。恥ずかしながら」

彼女は少し顔を赤らめながら、指を組む仕草をする。

「...年齢に恥じる要素なんて無いだろ」

「でも、年上なのに頼ってばかりで……」

「年齢なんて数字にすぎないと思うけどな」

俺もかつて、そういう固定観念に苦しんでいた。
勇者なのに弱い――と。
今思えば、周囲の考えに縛られていたのが馬鹿らしい。

「でも常識的には......」

「...今の俺たちは、社会から孤立しているんだ。世間体なんて今更じゃないか?」

冗談めかして言うと、彼女の表情が緩む。

「........確かに、そうかも..」

ルーナは吹っ切れたように、微笑んだ。

「お熱いね~!お二人さん!」

後ろから見知らぬ声がする。
...振り返ると、そこには魔物が立っていた。

顔の特徴はオークと似ている。
しかし、体が大柄で筋肉もより発達しているため、上位種であると言えるだろう。

「俺たちに何の用だ?」

俺の警戒を物ともせず、明るく笑う。

「...実は、ある人物を探していてね~。そいつがこの森にいるらしいんだ」

そう言って、似顔絵を見せてきた。

「.....なぁ、君たちはこの顔に見覚えはあるかい?」

「...こいつは、A級勇者のヤク」

一年前、勇者に指名された同期。
そして――

俺より先に国から亡命した男でもあった。

「おっ!知ってんのか!...なら、この森で見かけなかったか?」

「...いや、見ていないな」

「嬢ちゃんは?」

「いえ、私も見かけませんでした」

「...そうかい。そりゃあ、残念だ」

「用は済んだろ。俺たちは食事中だから、探すのなら別の人に当たってくれ」

「..............フン」

ハイオークの表情が一変する。
親しみやすそうな笑みから、挑発的な笑みへと。

「そういう訳にはいかねぇなぁ!!」

ぐちゃり!と俺の作った料理を踏み潰す。

「貴様らを始末せねばならんからな。これと同じように」

料理の残骸を指さす。

「どうして私達を殺そうと」

「上からの命令だ。ヤクを探す以外にも、この森に住まう人間どもを蹂躙するようにとな」

「その上というのは...一体誰の命令ですか」

「魔王軍の幹部、ビットナイト様だ」

「.....そんな。追手がここにやって来るなんて」

彼女の顔が絶望に染まる。

「”()()()”、下がってろ。こいつは俺が片付ける」

...孤児で貧しかった俺にとって、食べ物はすごく貴重だった。
そして、それだけではなくフォンの件も......。
だから俺は、食を弄ぶ者奴らが心底嫌いだ。
必ず落とし前を付けさせてやる。

「召喚(サムン)。.....来い、全ての分身ども」

地面から黒い魔法陣が浮かび、配下達が召喚される。

「楽しみだ。お前が分身を使った戦術にどのくらい持つか」
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