相棒をS級勇者に奪われた俺、スキル【力の前貸し】で勇者を破滅へ導く!~全てを負債地獄に叩き落とし、新たな魔王として君臨する!

第18話 天才的な指揮官

「鑑定《アプレイザル》」

ハイオークのステータスが脳裏に流れ込む。
──魔力1000。

対する俺は、狩りで得た分を合わせて600。


静かに手を掲げる。

力の前貸し(バンス)

漆黒の魔力がハイオークへと染み込んだ、その瞬間──
奴のステータスが上がる。

攻撃:455《350+105》
防御:195《150+45》
魔法:169《130+39》
魔防:182《140+42》
速さ:299《230+69》

....なるほど。
付与した魔力は、ステータス比率に基づいて分配されるのか。
やはり、“分身”だけが例外らしい。

「……何を企んでいる? なぜ俺に魔力を渡した」

声に動揺が滲んでいる。
揺れる瞳が、すべてを物語っていた。

俺は笑みを浮かべた。

「ハンディだよ。圧倒的に潰すだけじゃ、つまらないだろ?」

その一言で、奴の表情が一変する。

「──てめぇがハンディだと? ……調子に乗るな、雑魚が!!」

怒りに満ちた詠唱。
背後に現れた魔法陣から、手を差し込み──金棒を引き抜く。

場が重たい空気に包まれた。

「分身どもよ、行け」


◇ハイオーク

オークたちが一斉に地を蹴り、獣じみた咆哮を上げる。

「ブオォォオオオ!!」

四方から飛びかかってくるが──

(劣等種の寄せ集めか……笑わせるな!)

金棒が唸るたび、斧と肉が弾け、分身たちは吹き飛んだ。

「立て、もう一度だ」

男が命令し、再び突撃を繰り返す。

「何度やっても同じだ」

力の前貸し(バンス)

男の一声で、跳びかかる分身の挙動が変わった。
力が倍増したかのような勢い。

咄嗟に防御の構えを取るが──

――ガキィィィン!

激突音。
金棒が弾かれ、吹き飛んだ。

「ぐっ──!」


何が起こった!?
なぜ、格下であるはずのお前がオレを.......

しまった、バランスが!!
その隙を男は見逃さなかった。

「リース&バンス」

ハイオークの背後──見えていなかった一体が忍び寄る。
しかし、気づいたときには遅かった。

突き刺さるような痛みが走る。
オークに鉈で、腹を裂かれた。

「グハッ……!」

体勢を立て直そうとするも、別の個体に横から体当たりされる。
あまりの衝撃にハイオークは地を離れた。

直後、勢いのままに地面へ転げまわる。

(くそっ、数が多すぎて対応しきれねぇ)


すべての敵たちの動きを、視線で追うしかない。

右へ、左へ。

...そして、潰せそうな奴を叩く戦略に変える。

目の前のオークに殴りかかるが──

攻撃は交わされる。
分身の速さが急速に変化したためだ。
やはり、あの男の仕業か。

「クソがぁぁぁぁぁぁ!!」

次の瞬間、別の一体が忍び寄ったことに気づく。
恐らく、敵が何か仕込んだ個体。

──ならば、やられる前に潰すのみ。

功を成し、吹き飛ばした。
分身が仕掛ける直前を、狙うことで。

よし!対応でき──

「あぐッ──」

後頭部に大きな衝撃を喰らう。
意識が混沌とする。
気づいたら、地面が目の前にあった。

何が起こった?
まさか、潰した個体。
死角を生み出すための囮だったのか?

起き上がろうとするも、体が重い。
脳がダメージを受けたからだろうか。
思考すらままならない。

「分身ども。ハイオークのMPを大量消費させろ」

男の声と共に分身の動きに変化が。
なぜか攻撃を止め、ゆっくり近づいてくる。

「なめや......がって」

足がふらつく。
拳にも勢いが乗らない。
しかも当たる直前で、速さが変化し交わされる。

気づくとハイオークは、当たるかもしれないという可能性の沼にハマっていた。

そして──

回収(レトリーブ))」

この言葉で、これが罠だと気づく。

「なんだ!? 力が……!」

ハイオークの体から、漆黒に染まった魔力が流れ出る。
魔力が空っぽになっていく感覚。

「お、お前。オレの力を盗んだな」

絶望と恐怖が入り混じった感情が支配する。

「盗む? 貸す時に利子を付けるのは当然だろ」

魔力が急激に成長した男は、剣を抜き近づいてくる。

「ま、待てっ! 命だけは取らないでくれ」

「お前は蹂躙しようとしたんだぞ? さっき踏み潰した食べ物みたいに」

命乞いはバッサリ切り捨てられた。

「飯を粗末にした代償は、命で払え」

次の瞬間、ハイオークの視界は真っ暗になった。

   ▽

「……すごい」

思わず漏らしたルーナの声は、震えていた。

「魔力量では敵の方が上だったのに……」

「倒せた理由が気になるか?」

ルーナの続きを、俺が代わりに口にする。

「うん。……何か、仕掛けがあるの?」

「分身の性質を利用した」

──そう。
分身と奴とでは、前貸し時に明確な差が出る。

「分身にだけは──魔力を一点に付与できる」

ルーナの目が丸くなる。

「だから、魔力量なんて関係ない。奴の防御を上回る攻撃力さえあれば倒せる」

「なるほど……」と頷くルーナ。
だが、すぐに首を傾げた。

「でも……どうして分身だけが可能なの?」

「分身は、自分と非常に近い存在だ。だから、俺がステータスを変動できるように、似たことが可能なのかもしれない」

「……ステータス変動って、無敵の能力だね」

確かにこのスキルは強力だ。
だが、決して無敵ではない。
一つ、大きな欠点が──

「……っ! ルーナ、避けろ!!」

「えっ?」

彼女の背後から火炎放射。
俺はその前に出て、灼熱を受け止めた。

(危ねぇ……間一髪)

魔力を魔防に移動させる時間が……。
間に合わなければ即死だった。

「火傷とかしてないか?」

「ううん、平気だよ」

一安心し、炎が飛んできた方向を睨む。

「あら、残念」

茂みの奥から姿を現す。
上半身は人間、下半身は蛇──ラミアだ。

「もう少しで女狐を始末できたのに」

状況を飲み込めず、困惑するルーナ。

「私が……女狐?」

「何て白々しい。彼のことが好きで、狙ってるんでしょう?」

「……え、えっと、それは」

……こいつ、何を言っているんだ?

「私の方が、女狐より先に目を付けてたのに!」

怨念がこもった視線でルーナを睨む。
……って、それどころじゃない。

「おい、ラミア。先に目を付けたってどういうことだ?……まさか、俺に尾行を.....」

「ええ、していたわ。リザードマンと戦っていた時からね」

そんな前から....。
全く気付かなかったが、何か兆候はあっただろうか?

……リザードマン。
少し前の記憶を遡る。
そういえば魔物の接近も、仕掛けた木が音を発して気づいた。
しかし、踏んだのは枝との距離的に奴ではなかった。
もしかしたら、ラミアがおびき寄せるために踏んだのか?

ただ、なぜ尾行なんて手間のかかる選択をした?
仕留める機会はいくらでもあったはず。
.....俺をわざわざ生かしていた利点。

まさか、俺のスキルが目当てか?

「貴様も魔王軍だろ。なぜ早く殺さなかった?」

「あなたの顔が好みだったから」

……は?

恍惚とした表情で語るラミア。

「だから人間を蹂躙するなんて命令、聞けなかったわ」

「でも……私のことは殺そうと」

「女狐は別。恋敵だから」

……勘違いしている。
ルーナは俺に気があるわけじゃない。

「別に、彼女とはそういう関係じゃない」

「嘘ね、少なくとも女狐の方は.....。洞穴を出た辺りから、ずっとメスの顔してる」

ルーナは恥ずかしそうに俯く。
……いかがわしい行為を疑われ、心外なのだろう。
ここはフォローしておこう。

「言いがかりはやめろ。お前が想像するようなことは何もない。大半は俺が寝てたんだからな」

「あなたはしてなくても、女狐が潔白とは限らないわ。寝込みにキスくらいできるし」

どれだけ妄想が激しいんだ。
そんな事言いだせば、切りがない。

「そんな馬鹿げたこと、あるわけないだろ」

俺はルーナに視線を向け、同意を求めた。

「えっ?……う、うん。そうだね」

「あっ! 今、動揺してた! やっぱり怪しい!」

聞く耳を持たない。
これ以上、何を言っても無駄だ。

「で、あんたの目的は何だ?」

問いかけると、ラミアは一呼吸置いて俺を見つめた。

「告白よ」

表情は──真剣だった。

「私のパートナーになって?」

「……」

「あなたの一番大切な存在になりたい」

「断る。俺の一番大切な存在は、相棒だけだ」

「────」

空気が凍り付いた。
俺はそれを無視して、ルーナの肩を叩く。

「《《ルーナ》》、大分時間を食ったから先を急ごう」

「......彼女は大丈夫なの?」

「返答したんだし、これ以上付き合う義理はないだろ」

それに、この女には不可解な点がある。

「へぇ~。その相棒って、女狐のこと?」

違うが、わざわざ教える義理もない。

「あ~あ。私……あなたにがっかりしすぎて、八つ当たりしたくなっちゃった」

ラミアの目が一気に加虐的に変わる。

「ずっと見てたから分かるわ。あなたの能力には、弱点があるわよね?」

──まさか。

「ステータスを変動させる時にできる隙。そこを突いたら、あなたはどうなるかしら?」

──スキル最大の欠点に、気づかれていた
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