相棒をS級勇者に奪われた俺、スキル【力の前貸し】で勇者を破滅へ導く!~全てを負債地獄に叩き落とし、新たな魔王として君臨する!

第23話 真実

集まり出した無数の光は、やがて塊になっていった。

(.....考えろ。何か打開できる策はないか)

まずは状況を整理する。
ビットナイトは、すでに機密の一部を話した。
つまり、盗み聞きがバレた時点で死は確定。
素直に姿を見せて交渉という手も使えない。

……いや、そもそも。
あの性格からして、聞いてなくても人間を見逃すとは思えないが。

「.....................」

――待てよ。
ここにいたのが人間ではなく、魔物だと思わせたらどうだ?
やってみる価値はある。

小声で囁くように「召喚(サムン)」と唱える。
地面に魔法陣が浮かび、オークが出現。
すぐにある“指示”を出す。

「……ゴホ」

命令どおり、オークが咳をし始めた。
そのまま茂みから立ち上がり、ビットナイトの前に姿を現す。

「……おや、オークでしたか」

奴の手から光の塊が消える。

「どうやら、驚かせてしまったようですね。申し訳ない」

オークは再び咳き込む。
ルーナの咳と勘違いさせるためだ。

「もしかして、私が土煙を巻き上げたせいで咳を?」

ビットナイトがオークに近づく。

「……ブォ?」

このままだと茂みに、俺たちがいるのが露見する。
それを察したのか、オークも龍の魔物へと歩み寄った。

(……さて、どう出る)

相手がどんどんと近づく。
二体の魔物の距離は1メートルを切った。
すると、ビットナイトが魔法陣を展開し、手を差し込んだ。

緊張が走る。
――しかし、
取り出されたのはポーション、回復薬だった。

「これはお詫びとして、受け取って下さい。少しは喉に効くはずですから」

ポーションがオークの手に渡る。

「では、私はこれで」

ビットナイトは背を向け、ラミアの元へ戻る。
亡骸を抱え、羽を広げると――
空へと飛び立ち、大空を翔るように去っていった。

「……あいつ、同族には優しいんだな」

――ほっと息を吐く。
ひとまず、修羅場は越えたか。

召喚(サムン)解除」

分身にポーションを譲り受けた後、召喚を解いた。

「見たところ、普通のポーションだな」

念のため蓋を開け、数滴を口に含む。
毒があれば、何らかの拒否反応が出るはず。

「…………」

口に含んでしばらく経過した。

「……よし、大丈夫だな」

毒は確認されなかった。
これならルーナに使える。

気を失っているルーナを抱き上げ、口元にポーションを注ぐ。

「──ごほっ」

液体が喉につっかえたのか、数度咳き込んでいた。

   ▽

しばらくして、ルーナが目を開けた。
姿が人間からサキュバスへと変わり、大きな魔力が溢れる。

「……助けてくださり、ありがとうございます」

――起き上がった彼女に、違和感を覚える。
いつもの柔和な雰囲気ではない。
毅然とした印象。

「....あんた、一体誰だ?」

「あらっ、名前で呼んで下さらないのですか?私もルーナですのに」

彼女は、口に手を添え静かに笑う。

「まぁ...無理もないかもしれませんね。貴方とは滝つぼで会って以来ですから」

滝つぼ以来......。
そういえば、初めて出会ったときも今のように麗しかった。
だが人間に戻ってからは、鳴りを潜めたが。

...彼女は、2つの人格があると言っていた。
いつもが人間の方の人格だとしたら.....。
この彼女は──

「あんた....。もしかして、サキュバスの方のルーナか?」

首を縦に振り、うなづく彼女。

「普段は表には出ませんが.....。あの子に危機が迫った時だけ、私が代わるようにしています」

……つまり、俺が危険だと判断して現れた、ということか。
まぁ、ラミアへの対応を考えれば妥当かもしれない。

「あっ、別に貴方のことを疑っているわけではありませんよ?」

ルーナが俺の反応を察し、すぐに補足する。

「出会った時から警戒なんてしていませんでしたから」

「....何でだ?....大半の男は魅了に掛かるんだ。俺のことだって警戒しそうなもんだが」

「それは....。普通なら目を合わせた瞬間に掛かるのですが、貴方の場合は違いましたので」

……なるほど。
だから、耐性があると判断して警戒を解いたのか。

「じゃあ、あの時は? ほら、チンピラ二人組に絡まれたとき」

「……そうですね。確かに、あの場面では交代すべきだったかもしれません」

彼女の表情が変わる。
優雅な雰囲気から一転、陰を帯びたものへ。
そして頭を下げた。

「ごめんなさい。実はあの時、貴方を試しました」

「……何を?」

「私を助けてくれるを、です」

「俺が助けなくても、あんたの人格なら何とかできただろ」

「確かに貴方の言う通りです。....ただ」

彼女は顔を上げ、真っすぐにこちらを見る。

「私が対処していたら、あの子と貴方が旅をすることもなかったでしょう」

「……」

まさか。
俺とルーナが関わるよう仕向けるために、あえて静観を.....。

「貴方を巻き込んでしまったことは、本当に申し訳なく思っています。けれど、どうしても……あの子に人との繋がりを知らないまま死んでほしくなかった」

もう後がないかのような表情。

「せめて最後くらいは、気を許せる人との思い出を……」

最後、か。
どちらの人格も、自分の命を諦めているのだろう。

「どうしてあんたは、もう一つの人格にそこまで入れ込む?」

「.......あの子が一人になったのは、私のせいだからです」

視線を伏せ、胸に手を当てる。
その顔には深い罪悪感がにじんでいた。

「……あの子が人里へ降りた理由、知っていますか?」

「……理由って、追手から逃げるためだろ」

「いえ、勇者の力を借りるためです」

....勇者の力?

「...........!」

..そうか。
一瞬なぜかと思うも、追手はあの魔王軍。
お互い因縁の相手だ。

「なるほど。つまり、勇者に魔王軍から助けてもらおうとしたってわけか」

ルーナが魔物でも、人間の姿を装えば可能だろう。

「....はい。ですが、私の能力のせいで……その望みすら絶たれました」

「あんたの能力....。あっ、もしかして魅了か?」

彼女は小さくうなずいた。

「魅了が暴走して、正体を隠せなかったんです」

……魅了の暴走か。
恐らく、チンピラ2人組のような奴らを町中で増やしてしまったのだろう。
そんな中だと、確かに正体を隠すのは難しい。

「……前にルーナが言っていた“村の崩壊”って、それが原因か?」

「……はい」

「……そうか。それは……大変だったな」

少し沈黙があった後、彼女は懺悔するように話し始めた。

「この力のせいで、あの子は……男性からは常に欲望の目を、女性からは敵意を向けられました」

彼女の表情が一層、陰を帯びる。

「そして村の崩壊を皮切りに....。頼みの勇者からも追われるようになって........」

桃髪女の力んでいた体がフッと抜ける。

「.......あの子が、独りになったのは全て私のせいなんです」

「...........」

「だから、あの子にどう償うか……この一年、ずっとそのことばかり考えていました」

――もう一つの人格への罪の意識。
それが、彼女がルーナに強く執着する理由か。

「……でも、そんな時に出会ったんです。魅了にかからない、貴方に」

彼女は、縋るような眼差しをこちらに向けた。

「私直感しました。貴方を逃せば、あの子は誰とも繋がらないまま死ぬことになると」

続けて彼女は言った。

「だから、あのときも……。男性二人に絡まれた時も、貴方の助けを待ちました」

その告白に、俺は肩をすくめて笑った。

「つまり、俺は策にまんまと嵌められたってわけだ。あんたの狙い通り、ルーナとは関わるようになったしな」

彼女はもう一度、深く頭を下げた。

「あの子を助けてくれて、さらに協力関係まで結んでいただいて.....。このご恩は一生、忘れません」

「別に気にすんな。ルーナに関わったのは俺の判断だ」

肩をポンと叩き、頭を上げさせる。

「それに助けたって言っても、魔力を後ろから送っただけだ。リスクを負ってないし、大したことじゃない」

「いえ、そんなことはありません」

意外にも、彼女は即座に否定した。

「もし貴方が正面から追い払っていたら、“ビットナイト”にスキル情報が渡っていたかもしれませんから」

「.....ビットナイト」

「.........................」

2人の間の空気が一層、重くなる。

ルーナと彼女が、生きる希望を捨てた元凶とも言える存在。
護衛として守るには、あいつを倒すしかない。
だが、正面からではまず勝てない相手。

せめて、弱点──いや、奴の弱みなら何でもいい。

それを交渉に使って、罠に嵌めれるなら。
....そのためには、奴らの秘密を握ることが前提になる。

奴ら....魔王軍の秘密。
──機密

「.....そうだ!奴らの機密」

「えっ?」

サキュバスが、過剰に反応した。

「なあ、あんたは魔王軍の機密を知ってるんだろ?」

「……はい」

「教えてくれ。この森全体の“機密”って、一体何なんだ?」

「……ごめんなさい。話せません」

勢いよく頭を下げ、長い髪が揺れた。

「機密を話せば、貴方も標的になってしまいますから」

……俺を巻き込みたくない、か。

──だが、ここは譲れない。

「......ルーナの考えは分かった。でもな、俺は逆なんじゃないかと思ってる」

「それは……どういう意味でしょう?」

「俺は、ルーナが魔王軍の機密を握っていることを知っている。そんな奴を魔王軍が放っておくとは思えない」

「つまり、貴方は既にターゲットになりうると……?」

「あぁ」

現にラミアも、俺とルーナの接触を知った時点で襲ってきた。

「つまり俺は、機密も知らないのに狙われる可能性がある。......これって一番危険だと思わないか?」

彼女はハッとしたように顔を上げた。

「たしかに……敵の目的が分からなければ、対策も立てられません」

「そう。だけど逆に、機密を知れば敵の動機が読める。幾つか、方法が見つかるかもしれない」

「..........でも、それでも.....この秘密を知ることは本当に危険で──」

彼女の表情に、迷いが浮かぶ。
あと一押し、といったところか。

「安心しろ。魔王軍の中で、俺を知る者はすべて葬ってきたんだ。つまり今、敵は俺を認識していない」

彼女はごくりと唾を飲み込む。

「その状態で機密を握れば、大きなアドバンテージになる」

「……どうして?」

「一言で言えば、情報戦で有利になるからだ」

ピンと来てなさそうだったので、補足を加える。

「向こうは俺のことを知らない訳だから、当然マークできないだろ?対して俺は機密がヒントになって敵の動きが読めるかもしれねぇ」

「................」

「その差を上手く利用すれば、魔王軍から逃げ切れるはずだ」

彼女は俺の顔を真剣に見つめた。
きっと、俺の覚悟を見定めたいのだろう。
なら取るべき行動は──誠意を込めて頼み込むこと。

「……だから、俺を助けると思って機密を教えてくれ」

「……後戻りできなくなっても、知りたいですか?」

「ああ」

「機密を話すことは、私たちの“出自”にも触れます」

出自……彼女にとっては触れたくない話だろう。

「どうかお願いです。出自がどうであっても、あの子のことを嫌わないであげてください。私のことは、何て言ってくれても構いませんので」

「分かった。どんな出自でも、ルーナを拒んだりしない。勿論、あんたもな」

サキュバスは一度大きく息を吐いた。

「まず、なぜ私が魔王軍の機密を知っているのか。その理由から話します」

「…………」

「……実は私、魔王の娘なんです」
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