相棒をS級勇者に奪われた俺、スキル【力の前貸し】で勇者を破滅へ導く!~全てを負債地獄に叩き落とし、新たな魔王として君臨する!
第22話 口実
◇リザヤ
危なかった。
少しでも判断が遅れれば、化け物と鉢合わせするところだった。
遠くから規格外の魔力を感じた瞬間、俺はまず魔力を素早さに振る。
そして、サムン解除で痕跡を消し、ルーナの元へ疾走。
たどり着いたらルーナの腕を引き、近くの茂みに隠れた。
「....悪い。説明もなしに、腕を強く引っ張って」
「う、ううん。全然平気だったから気にしないで」
息が少し落ち着く。
すると、ラミアとのやり取りが頭の中で反芻《はんすう》する。
残虐非道なやり方で、瀕死まで追い込んだ。
......正直言って後悔はない。
奴を殺さなければ、俺のスキル情報は魔王に渡る。
それは、復讐を果たす過程で大きな足枷。
だから、騙し討ちする戦略は正解だった。
.....問題は、ルーナがこれをどう捉えているか。
「なぁ、一つ聞きたいんだが」
「.........?」
「.....ルーナは、俺のしたことについてどう思っているんだ?」
もし、ショックを受けたのなら......。
俺たちは一緒に行動しない方がいい。
俺は今後も、このやり方を変えるつもりはないのだから。
「正直に言うとね.......。少し非道なやり方だなぁ、とは思ったよ」
そう言いながら、彼女の視線は俺から茂みの向こうへと移る。
....震える手で何とか情報を伝えようと、もがくラミア。
「けど、貴方がしなかったら....。毒ポーションを盛られていたのは私達だった」
ルーナは敵に哀れみを向けている。
しかし同時に、そんな残酷な行為もどこか見慣れた様子。
「その行為で助けられた自分に、否定する権利なんて無いよ」
「.....そうか」
俺は少し侮っていたのかもしれない。
彼女の死生観は、思っていたより達観している。
(......!)
覗いていた敵に動きが....。
ラミアを腕に抱えていた、魔物が立ちあがった。
その為、姿が良く見える。
奴は、龍の顔に人型の手足が特徴の魔物。
背中には大きな翼が生えている。
これだけ見えれば――
鑑定が使える。
俺は小声で、《《そう》》唱えた。
――――――――――――
ビットナイト
Lv845
魔力(エナジー) 70000
5大ステータス
攻撃 20000
防御 7000
魔法 20000
魔防 13000
速さ 10000
ポイント残量
MP 70009/70100
HP 69530/69530
――――――――――――
魔力7万.....。
俺の魔力は、5600。
ステータス変動で、対応できる領域を遥かに超えている。
ごくりと、唾を飲み込んだ。
「一体、誰がメレシスをこんな目に」
ビットナイトは、感傷に浸るように呟いていた。
......しかし、すぐに切り替えたのか。顔を横に向ける。
「....それで、そこの人間」
奴に捕まっていた男が震えあがる。
「さっき、言いかけていた情報を教えなさい。...あなたの親分みたいに殺されたくないのなら」
.....親分?じーっと、男の顔に集中を向ける。
よく見ると、あの男....。ルーナを襲った二人組の子分だ。
「も、桃髪の女のことだべか!?そいづなら数時間前さ会った」
「ほぅ.......。やはり、あの娘はこの森に潜んでいましたか」
(........!?)
ビクッと隣から振動が伝わる。
ルーナの体が小刻みに揺れて、呼吸もやや浅い。
あの魔物のことがトラウマなのだろうか?
「我らにとって、踏み込みづらい場所に身を隠すとは。.....忌々しい」
敵の発する声には明らかな怒気が含まれている。
その様子から、ルーナに相当イラついていそうだ。
「もしかしてメレシスってやづも、桃髪の女にやられでしまったんでねぇべか?」
「.......なぜ、そう思うんです?」
「桃髪の女さに絡んだとき、奴の魔力が急に強くなっただ。だから、このラミアも倒せるんでねぇかと」
龍は声を抑えながら、せせら笑い始めた。
「それはないでしょう。あの娘は、点で魔力を使いこなせませんし」
「じゃあ、誰が...」
「恐らくは、この森にやって来た勇者の”ヤク”でしょうね」
そう言って、再びしゃがみこんだ。
そして、ラミアの頭を優しく撫でる。
「残念ながらメレシスの実力では、彼に遠く及びませんから」
.....よし。
犯人の矛先が別の方に向かっている。
つまり、俺が疑われることは無くなった。
龍の魔物は当然俺を知らないし、チンピラ男にも、変な印象を残していない。
これで俺のスキルを嗅ぎつけられる者は、いなくなった。
「えっ?この森さ、勇者が来てるんべか!?」
男のうわづいた声。
まるで何かに縋っているかのよう。
「.....ふん。もしかして、勇者が助けてくれることを期待していますか?」
「いや、全然そんなことねぇべ」
男は、引きつった笑みで誤魔化した。
「.....哀れですね。真逆だというのに」
「.....どういうこと...だべ?」
「いいでしょう。どうせ殺すんです、真実を教えてあげましょう。人間どもの顔を、絶望に変えるのもまた一興ですし」
「こっ、こ、こ、殺すって.....」
ニワトリのような声を上げながら、後ずさっている。
「動くな。......あと一歩でも動いたら、今すぐ消しますよ」
男は、首を上下に振りうなづく。
その反応を見て、ビットナイトはゆっくり立ち上がった。
「さっきも言った通り、順序が逆なのですよ。あのA級勇者がやって来たから、私達魔王軍も口実ができた」
「......なっ?」
「我々の真の目的は、機密を握る桃髪の女を始末することです」
.....やはり、ヤクは建前だったか。
だが、そうなると新たな疑問が浮かぶ。
ルーナが一年、追手の気配無くここで過ごせたこと。
対して、魔王軍はこの森にいることを知っていたかのような発言。
明らかに矛盾する。
――なぜ、居場所を知っていながらこの一年攻め入らなかったのか?
隣を見ると、ルーナは目を伏して丸まっていた。
「本当ならすぐに駆けつけ、処分したいところだったのですが....。あの小賢しい娘は、あろうことか、魔境の森に隠れた」
「何で、こんな魔物がたくさん潜む森なんかに」
「それは、この場所事態が機密で、隠したい場所だからです」
龍の魔物は、丁寧に話を続ける。
「森で捜査するには大勢の手が必要ですよね?しかし、大軍を引き寄せた場合はどうしても人目がつく」
「ひ、人目...。それが何だというんだべ?」
「隠したい場所に注目が集まってしまうんですよ。大衆の目には.....”あの魔王が突然、魔境の森に多数の軍を送った”。という不自然な行動に映りますから」
煩わしいと言わんばかりの、溜息。
支持する側にとっても、相当な手間なのだろう。
「.......だから、公が納得する口実が必要だったのです」
「.....どうして強ぇあんだだつが、公の目を気にすん?」
「勘の良い者達に、察せられないようにするためです。一度疑問を持たれたら、この場所を隠し続けるのも難しくなりますからね」
....だからルーナがこの森にいると分かっても、中々手を出せなかったのか。
「しかしそんな中、現れたのですよ。我々にとっての救世主が」
「救世主!?....まっ、まさか。それが.....」
「.....そう、勇者のヤクがこの森にやって来たのです」
男は察したのか、体が硬直している。
「彼は魔王軍にとって甚大な被害を出してきました。だから我々が、兵を送る動機としては十分、成り立つ」
「あ......あ.....あ」
「この森で攻め込むことも、”仲間が呼べない環境下で包囲して叩く”という戦略としてカモフラージュできます」
男の反応を味わうかのように、口角を歪ませる魔物。
「つまり、あなたが偶然わたしに遭遇し、死ぬ羽目になったのも.....。勇者がここに来たからです」
「う....嘘だべ。.....勇者のせいで俺が死ぬなんて」
なるほど。
魔王軍の狙いは、機密の保守だということは分かった。
だが.....そこまでして守りたい機密は分からないままだ。
....一体、この魔境の森には何がある?
魔王の慎重具合からして、想像もできない様な”モノ”が隠されているに違いない。
「.......死ぬ前に....教えて...くれねぇべか?この森には.....何が隠されてんのかを」
「......釣り合いませんね」
「...えっ?」
「あなたに、機密を話すのは釣り合わないと言ったんです」
龍は嘲笑うかのように、言い放つ。
「なら、何で...勇者が...建前...という...話を...したん...だべ?」
「さっき、言ったでしょう。勇者に縋るあなたを、事実で絶望させるためだと。....人間の怯えた顔を拝むのは、私の趣味の一つですからね」
「.........」
男は無言になった。
そして、虚ろな目に....。
恐怖のあまり、頭が真っ白になったのだろう。
「あっ、もう動いて構いませんよ。あなたは用済みになりましたから」
「あっ....あっ...あ」
まるで金縛りにでも遭ったかのように、一寸も動かない。
「ずっと止まっているようですけど。...人生最後に体を動かさなくて大丈夫ですか?」
そう言いながら、ビットナイトが男に近づく。
「なんだか拍子抜けですね。...人の最後の断末魔を聞けないなんて。まるでデザートを食べ損ねた気分です」
男の腕を掴んだ。
と思ったら次の瞬間――
そいつは、空の彼方へ投げ飛ばされた。
.....一振りであんな上空まで飛ばすなんて。
やはり、魔力7万は伊達じゃない。
ビットナイトが手を、上へかざす。
すると、手からは無数の光が集まり出した。
光は膨張していき、手よりも大きいエネルギーの塊になる。
「私をがっかりさせた償いとして、派手に散りなさい!」
言い終わったのと同時に、かなり太い光線を放つ。
まるで黄金に輝く光の柱だ。
そして、それは上空の男に衝突した。
刹那、けたたましい音を立てながら、爆発。
まるで辺り一帯の空気が揺れているようだ。
しかも、上空で爆発したのに、俺たちにも風圧が襲う。
――ルーナは無事か?
隣を確認しようにも、光の眩しさで視界が真っ白だった。
▽
しばらくして、徐々に視界が開けていく。
俺はすぐさま、隣を見た。
....ルーナがいない。
まさか、あの風圧で――
俺は忍び足で周囲を捜索する。
あの風圧は、俺でさえ飛ばされないことで必死だった。
つまり、MPを使い切った人間体のルーナでは.....。
「.......!!」
...良かった。
思いのほか、早く見つかった。
ルーナは、元いた距離の150m後ろに転がっていた。
彼女を腕に抱える。
.....意識が無い。
とりあえずルーナを抱えたまま近くの大きな茂みに隠れる。
そして、すぐさま横に寝かせ容態を確認する。
.....................。
目立った外傷は、なさそうだ。
となると、意識を失った要因は頭を打ったからだろうか?
「ごほっ――」
突然、彼女が咳をした。
土が器官に入ったためだろうか?
.....日常なら何気ない生理現象の話。
しかし、今は状況が違った。
「..誰だ!」
ビットナイトがこちらの方に視線を向ける。
「隠れても無駄ですよ。....そこの物陰にいることは分かっていますから」
龍の魔物は、手をかざす。
再び、無数の光が奴の手に集まり出した。
危なかった。
少しでも判断が遅れれば、化け物と鉢合わせするところだった。
遠くから規格外の魔力を感じた瞬間、俺はまず魔力を素早さに振る。
そして、サムン解除で痕跡を消し、ルーナの元へ疾走。
たどり着いたらルーナの腕を引き、近くの茂みに隠れた。
「....悪い。説明もなしに、腕を強く引っ張って」
「う、ううん。全然平気だったから気にしないで」
息が少し落ち着く。
すると、ラミアとのやり取りが頭の中で反芻《はんすう》する。
残虐非道なやり方で、瀕死まで追い込んだ。
......正直言って後悔はない。
奴を殺さなければ、俺のスキル情報は魔王に渡る。
それは、復讐を果たす過程で大きな足枷。
だから、騙し討ちする戦略は正解だった。
.....問題は、ルーナがこれをどう捉えているか。
「なぁ、一つ聞きたいんだが」
「.........?」
「.....ルーナは、俺のしたことについてどう思っているんだ?」
もし、ショックを受けたのなら......。
俺たちは一緒に行動しない方がいい。
俺は今後も、このやり方を変えるつもりはないのだから。
「正直に言うとね.......。少し非道なやり方だなぁ、とは思ったよ」
そう言いながら、彼女の視線は俺から茂みの向こうへと移る。
....震える手で何とか情報を伝えようと、もがくラミア。
「けど、貴方がしなかったら....。毒ポーションを盛られていたのは私達だった」
ルーナは敵に哀れみを向けている。
しかし同時に、そんな残酷な行為もどこか見慣れた様子。
「その行為で助けられた自分に、否定する権利なんて無いよ」
「.....そうか」
俺は少し侮っていたのかもしれない。
彼女の死生観は、思っていたより達観している。
(......!)
覗いていた敵に動きが....。
ラミアを腕に抱えていた、魔物が立ちあがった。
その為、姿が良く見える。
奴は、龍の顔に人型の手足が特徴の魔物。
背中には大きな翼が生えている。
これだけ見えれば――
鑑定が使える。
俺は小声で、《《そう》》唱えた。
――――――――――――
ビットナイト
Lv845
魔力(エナジー) 70000
5大ステータス
攻撃 20000
防御 7000
魔法 20000
魔防 13000
速さ 10000
ポイント残量
MP 70009/70100
HP 69530/69530
――――――――――――
魔力7万.....。
俺の魔力は、5600。
ステータス変動で、対応できる領域を遥かに超えている。
ごくりと、唾を飲み込んだ。
「一体、誰がメレシスをこんな目に」
ビットナイトは、感傷に浸るように呟いていた。
......しかし、すぐに切り替えたのか。顔を横に向ける。
「....それで、そこの人間」
奴に捕まっていた男が震えあがる。
「さっき、言いかけていた情報を教えなさい。...あなたの親分みたいに殺されたくないのなら」
.....親分?じーっと、男の顔に集中を向ける。
よく見ると、あの男....。ルーナを襲った二人組の子分だ。
「も、桃髪の女のことだべか!?そいづなら数時間前さ会った」
「ほぅ.......。やはり、あの娘はこの森に潜んでいましたか」
(........!?)
ビクッと隣から振動が伝わる。
ルーナの体が小刻みに揺れて、呼吸もやや浅い。
あの魔物のことがトラウマなのだろうか?
「我らにとって、踏み込みづらい場所に身を隠すとは。.....忌々しい」
敵の発する声には明らかな怒気が含まれている。
その様子から、ルーナに相当イラついていそうだ。
「もしかしてメレシスってやづも、桃髪の女にやられでしまったんでねぇべか?」
「.......なぜ、そう思うんです?」
「桃髪の女さに絡んだとき、奴の魔力が急に強くなっただ。だから、このラミアも倒せるんでねぇかと」
龍は声を抑えながら、せせら笑い始めた。
「それはないでしょう。あの娘は、点で魔力を使いこなせませんし」
「じゃあ、誰が...」
「恐らくは、この森にやって来た勇者の”ヤク”でしょうね」
そう言って、再びしゃがみこんだ。
そして、ラミアの頭を優しく撫でる。
「残念ながらメレシスの実力では、彼に遠く及びませんから」
.....よし。
犯人の矛先が別の方に向かっている。
つまり、俺が疑われることは無くなった。
龍の魔物は当然俺を知らないし、チンピラ男にも、変な印象を残していない。
これで俺のスキルを嗅ぎつけられる者は、いなくなった。
「えっ?この森さ、勇者が来てるんべか!?」
男のうわづいた声。
まるで何かに縋っているかのよう。
「.....ふん。もしかして、勇者が助けてくれることを期待していますか?」
「いや、全然そんなことねぇべ」
男は、引きつった笑みで誤魔化した。
「.....哀れですね。真逆だというのに」
「.....どういうこと...だべ?」
「いいでしょう。どうせ殺すんです、真実を教えてあげましょう。人間どもの顔を、絶望に変えるのもまた一興ですし」
「こっ、こ、こ、殺すって.....」
ニワトリのような声を上げながら、後ずさっている。
「動くな。......あと一歩でも動いたら、今すぐ消しますよ」
男は、首を上下に振りうなづく。
その反応を見て、ビットナイトはゆっくり立ち上がった。
「さっきも言った通り、順序が逆なのですよ。あのA級勇者がやって来たから、私達魔王軍も口実ができた」
「......なっ?」
「我々の真の目的は、機密を握る桃髪の女を始末することです」
.....やはり、ヤクは建前だったか。
だが、そうなると新たな疑問が浮かぶ。
ルーナが一年、追手の気配無くここで過ごせたこと。
対して、魔王軍はこの森にいることを知っていたかのような発言。
明らかに矛盾する。
――なぜ、居場所を知っていながらこの一年攻め入らなかったのか?
隣を見ると、ルーナは目を伏して丸まっていた。
「本当ならすぐに駆けつけ、処分したいところだったのですが....。あの小賢しい娘は、あろうことか、魔境の森に隠れた」
「何で、こんな魔物がたくさん潜む森なんかに」
「それは、この場所事態が機密で、隠したい場所だからです」
龍の魔物は、丁寧に話を続ける。
「森で捜査するには大勢の手が必要ですよね?しかし、大軍を引き寄せた場合はどうしても人目がつく」
「ひ、人目...。それが何だというんだべ?」
「隠したい場所に注目が集まってしまうんですよ。大衆の目には.....”あの魔王が突然、魔境の森に多数の軍を送った”。という不自然な行動に映りますから」
煩わしいと言わんばかりの、溜息。
支持する側にとっても、相当な手間なのだろう。
「.......だから、公が納得する口実が必要だったのです」
「.....どうして強ぇあんだだつが、公の目を気にすん?」
「勘の良い者達に、察せられないようにするためです。一度疑問を持たれたら、この場所を隠し続けるのも難しくなりますからね」
....だからルーナがこの森にいると分かっても、中々手を出せなかったのか。
「しかしそんな中、現れたのですよ。我々にとっての救世主が」
「救世主!?....まっ、まさか。それが.....」
「.....そう、勇者のヤクがこの森にやって来たのです」
男は察したのか、体が硬直している。
「彼は魔王軍にとって甚大な被害を出してきました。だから我々が、兵を送る動機としては十分、成り立つ」
「あ......あ.....あ」
「この森で攻め込むことも、”仲間が呼べない環境下で包囲して叩く”という戦略としてカモフラージュできます」
男の反応を味わうかのように、口角を歪ませる魔物。
「つまり、あなたが偶然わたしに遭遇し、死ぬ羽目になったのも.....。勇者がここに来たからです」
「う....嘘だべ。.....勇者のせいで俺が死ぬなんて」
なるほど。
魔王軍の狙いは、機密の保守だということは分かった。
だが.....そこまでして守りたい機密は分からないままだ。
....一体、この魔境の森には何がある?
魔王の慎重具合からして、想像もできない様な”モノ”が隠されているに違いない。
「.......死ぬ前に....教えて...くれねぇべか?この森には.....何が隠されてんのかを」
「......釣り合いませんね」
「...えっ?」
「あなたに、機密を話すのは釣り合わないと言ったんです」
龍は嘲笑うかのように、言い放つ。
「なら、何で...勇者が...建前...という...話を...したん...だべ?」
「さっき、言ったでしょう。勇者に縋るあなたを、事実で絶望させるためだと。....人間の怯えた顔を拝むのは、私の趣味の一つですからね」
「.........」
男は無言になった。
そして、虚ろな目に....。
恐怖のあまり、頭が真っ白になったのだろう。
「あっ、もう動いて構いませんよ。あなたは用済みになりましたから」
「あっ....あっ...あ」
まるで金縛りにでも遭ったかのように、一寸も動かない。
「ずっと止まっているようですけど。...人生最後に体を動かさなくて大丈夫ですか?」
そう言いながら、ビットナイトが男に近づく。
「なんだか拍子抜けですね。...人の最後の断末魔を聞けないなんて。まるでデザートを食べ損ねた気分です」
男の腕を掴んだ。
と思ったら次の瞬間――
そいつは、空の彼方へ投げ飛ばされた。
.....一振りであんな上空まで飛ばすなんて。
やはり、魔力7万は伊達じゃない。
ビットナイトが手を、上へかざす。
すると、手からは無数の光が集まり出した。
光は膨張していき、手よりも大きいエネルギーの塊になる。
「私をがっかりさせた償いとして、派手に散りなさい!」
言い終わったのと同時に、かなり太い光線を放つ。
まるで黄金に輝く光の柱だ。
そして、それは上空の男に衝突した。
刹那、けたたましい音を立てながら、爆発。
まるで辺り一帯の空気が揺れているようだ。
しかも、上空で爆発したのに、俺たちにも風圧が襲う。
――ルーナは無事か?
隣を確認しようにも、光の眩しさで視界が真っ白だった。
▽
しばらくして、徐々に視界が開けていく。
俺はすぐさま、隣を見た。
....ルーナがいない。
まさか、あの風圧で――
俺は忍び足で周囲を捜索する。
あの風圧は、俺でさえ飛ばされないことで必死だった。
つまり、MPを使い切った人間体のルーナでは.....。
「.......!!」
...良かった。
思いのほか、早く見つかった。
ルーナは、元いた距離の150m後ろに転がっていた。
彼女を腕に抱える。
.....意識が無い。
とりあえずルーナを抱えたまま近くの大きな茂みに隠れる。
そして、すぐさま横に寝かせ容態を確認する。
.....................。
目立った外傷は、なさそうだ。
となると、意識を失った要因は頭を打ったからだろうか?
「ごほっ――」
突然、彼女が咳をした。
土が器官に入ったためだろうか?
.....日常なら何気ない生理現象の話。
しかし、今は状況が違った。
「..誰だ!」
ビットナイトがこちらの方に視線を向ける。
「隠れても無駄ですよ。....そこの物陰にいることは分かっていますから」
龍の魔物は、手をかざす。
再び、無数の光が奴の手に集まり出した。