相棒をS級勇者に奪われた俺、スキル【力の前貸し】で勇者を破滅へ導く!~全てを負債地獄に叩き落とし、新たな魔王として君臨する!
第25話 決意
「鑑定」
奴の情報が頭に入ってくる。
....魔力3000か。
やはり精鋭なだけはある。
....5大ステータスは
攻撃1000、防御800、魔法400、魔防200、速さ600
(勝てない相手ではないな)
だが、ビットナイトに気づかれないよう音を立てずに殺す必要がある。
丁度良い機会だ。
スキルで試したいことがあるため、こいつで検証しよう。
「召喚」
分身を一体、召喚。
オーガの元へと突撃させる。
「....誰だ!?」
オーガが分身に反応する。
「.....なんだ。ただのオークか」
分身が鉈をオーガに振り下ろす。
しかし、その攻撃は容易に防がれた。
「....身の程知らずが。その程度の魔力で勝てるわけなかろう」
よし。
作戦通り、奴の注意は完全に分身に注がれている。
その隙に、オーガの後ろへと静かに回り込む。
全魔力5600を”攻撃”に振る。
そして剣を抜き、奴の背後に急接近。
――腹を貫いた。
「ごふっ!!げは――」
振り返るオーガ。口から紫色の血を垂れ流している。
「き.....さ.....ま。卑怯.....だぞ」
「.....力の前貸し」
俺はオーガを無視し、スキル検証を開始。
奴の隣に負債プロンプトが現れる。
だがオーガに入り込む漆黒色の魔力の流れがすぐ止まった。
貸し出す魔力は、相手のHPと比例するからだ。
つまり、既に瀕死のオーガには少量しか貸し出せない。
「...貸し出せた魔力は10か」
今回の目的は魔力を奪うことではない。
だから、少量でも問題はない。
突き刺した剣を引っこ抜く。
すると、オーガがふらふらし始めた。
すかさず俺は奴の首筋に剣を当てる。
「貴様の....目的は...一体なんだ」
「この森を生きて抜けることだ」
「....馬鹿..め。この森の...出口には....大軍で塞がっている。....生きて抜けることなど.....不可能だ」
再び、ガサゴソと音が鳴る。
ルーナが真っ青な顔で近づいてきた。
奴の発言を聞いて、居ても立っても居られなくなったのだろう。
「.....貴様は....ルーナ。....なるほど、....手を..組んだわけか。...だからこの遺跡...付近に」
オーガは、血を吐きながらも憎しみの籠った顔で彼女を睨む。
「貴様のせいだ。貴様のせいで俺たちの部下は....全員死ぬ」
「....どういうことだ?」
「森に派遣された魔王軍は、いわばルーナと接触する可能性のある者達。もしこの女が機密を話せば、無理やり共犯者を作ることも出来てしまう」
....確かに機密が、末端にまで渡るのはかなりのリスクだ。
もし共犯者になった兵士が逃亡した場合、機密が魔王軍の外部に漏れる可能性が飛躍的に高まる。
「だから魔王様は、この森に来た下っ端を捨て駒として処分する計画を立てた」
最後の力を振り絞るように、声を張り上げる。
「ルーナ。全ては貴様のせいだ。貴様が逃げ出さずに自死していれば、部下たちは死なず――」
言い切る前に、オーガの腹を完全に貫き穴を空ける。
すると、相手の負債プロンプトが消えた。
....どうやら、殺すと魔力の利子は奪えなくなるようだ。
「...............」
後ろを振り返ると、ルーナの顔は沈んでいた。
「....あれはただの八つ当たりでしかないんだ。あいつの言葉を真に受けるなよ」
「.........うん」
彼女は、今にも消え入りそうな声で返事をするのだった。
▽
オーガの遭遇から、俺は新たな対策を考えた。
まず、全ての分身を召喚。
2つの命令をする。
一つは、索敵だ。
俺とルーナが円の中心になるようにオークを配置。
分身と自分の距離は2km離れているため、敵との遭遇を交わすことができる。
見つけた際は分身自身が再度、俺の場所に召喚移動することで情報が伝達される仕組みだ。
そして2つ目は、経験値稼ぎ。
遭遇したのが魔王軍ではなく魔物だった場合、狩るよう命じた。
分身が稼ぐ魔力は全部自分に捧げられるためだ。
これにより、自動的に俺に不労魔力が入ってくる。
「――――」
歩くことさらに数時間。
今の位置は、遺跡にかなり近い場所。
ただ、日は完全に暮れ辺りは真っ暗になった。
「今日はここまでにするか」
「うん、そうだね」
寝どころの準備に取り掛かる。
すると、ふと気になることができた。
「なぁ、遺跡にこれまで侵入者っていたのか?」
「.....うん、いたよ。でも、その遺跡から帰ってきた人達はいないけど」
「.......やっぱり遺跡の中には何か仕掛けがあるのか」
「うぅーん。仕掛けというよりは、魔物がたくさん潜んでいる感じだよ」
......魔物。
勝手な憶測だが、こんな場所にやってくる者達は腕もそれなりのものだろう。
だから侵入者が皆、魔物にやられたというのは違和感がある。
「.....ルーナ、遺跡について詳しく教えてくれないか?」
「.......分かった」
彼女の姿勢が正される。
「えっと....。まず、肝心の禁書は遺跡の最下層に保管されていて.....。侵入者になるべく取られないように、守りも工夫されているんだ」
「そうか。魔物達の配置も、守りの役割を担っているという訳だな。最下層への行く手を阻むための」
「.....うん。ただ、問題はその数。遺跡の中は四階層あるんだけど、一階層につき、魔物が400体敷き詰められているの」
「.......400体」
遺跡にほとんど逃げ場などなさそうだ。
「.....しかも一体の魔物の魔力は最低でも1000以上」
「....最低でもってことは、さらに上がいるってことか?」
ルーナが顔を縦に振り、肯定を示す。
「.....全階層合わせて、魔力5000の魔物が数百体いるかな」
魔力5000。
俺の現在の魔力量と同等の者達。
そんな奴らが数百体も........。
なるほど......。侵入者が生きて帰れない訳だ。
「でもそれも、魔王側にとっては時間稼ぎに過ぎない」
「.......えっ?まだ、何かあんのか?」
「実は遺跡に入った瞬間、魔王の元に連絡が入る仕掛けになってて.....。四天王が遺跡へと派遣されるの」
「ってことは.....。侵入者が生きて出るには、数千体の魔物と四天王を相手にする訳か」
「..........うん」
俺は少し魔王を侮っていた。
まさか、遺跡をそこまで厳重に保管しているとは。
奴の用心深さはけた違いだ。
ただ、だからこそ疑問が生まれる。
「....なぁ、一つ気になることがある」
「えっ、どんな事?」
「遺跡の魔物達が侵入者だけを襲うのか、どうかだ」
「うん....そうだよ?」
「ってことは仲間と敵の分別がつく、知性のある奴らってことになる」
彼女の反応を見るに、少し回りくどかったらしい。
俺は直球で疑問に思ったことを話す。
「その魔物達が本の秘密を知るリスクを、魔王はどう捉えているかが気になる」
「......その恐れはないよ。遺跡の魔物達は、魔王に自我を奪われているから。だから、秘密を共有したりはできない」
「......自我を奪ったら、敵と味方の分別がつかなくないか?」
「......それも魔王は...対策済みだよ」
ルーナは、肩を震わしている。
「幼い頃にね、魔王と遺跡に入ったことがあって....それで....。その中にいる魔物達は列を組んで静止していて、変だなと思ったの。...それを魔王に聞いたら....」
その光景がトラウマなのか、彼女の表情はかなり怯えていた。
「魔物達には、赤目の”センサー”が備えられているって.....」
「......センサーって何だ?」
「魔王だけが使える魔術のことだよ。魔力の特徴は人によって千差万別だけど、センサーはそれを捉えることができるの」
「へぇー。ってことは、そのセンサーを活用すれば識別も可能ってことだな。遺跡の中で番をする魔物達の魔力と外部からやってきた魔力、つまり侵入者とで」
「..........うん」
恐らくだが、侵入者の魔力を察知した場合のみ、魔物達を作動させているのだろう。
「あとこれは当然かもしれないけど。.......遺跡の管理者、つまりビットナイトは魔物の作動と停止を自在に操れるよ」
........設計の関連者ならではの特権ってやつか。
「でも、魔王が恐ろしいのはここからで....。センサーを備え付けられた者の目は、魔王と同じ赤目になってしまうの」
彼女の息がやや荒い。
「だから、魔王にその魔物の正体を聞くまでは、魔王軍の仲間だって気づけなかった」
「.....ルーナ?」
「私も何か失態を犯したら、同じように遺跡をさまようだけの存在になるかもと思うと――」
「ルーナ!!」
「えっ?」
彼女の顔にはダラダラと汗が滲む。
目の焦点が少し合っておらず、軽くパニックな様子だ。
「悪い。嫌なことまで思いださせて。.....途中で止めるべきだった」
「.........私の方こそ、取り乱しちゃってごめんなさい」
少し冷静さを取り戻したものの、表情はかなり疲弊している様子だ。
「......今日はもう寝た方がいい」
「...........うん。そうさせてもらうね」
ルーナは体を仰向けに倒す。
しかし、中々目を閉じない。
「................眠れないか?」
自分も隣で横になる。
「えっと....。それもあるけど、少しでも星空が見ないかなって。すごく落ち着けるから」
.....ここは空を覆うように、木々の葉が生い茂っている。
星空を見ることは不可能に近い。
だがそんなこと、一年もこの森にいた彼女が一番よく分かっているはず。
それでも、星を探すということは......。
「星、好きなんだな」
「......うん。星座を探すことが、私の唯一の生きがいだから」
「へぇー、星座か」
「あの.....。好きな星座とかはあったりする?」
さっきと打って変わり、ルーナの表情は少し明るくなった。
「あぁー、ごめん。俺、あんまり星座に詳しくないんだよな。ルーナは好きなのとかあるのか?」
「私はカリーナ座が好きかな」
...カリーナ。竜骨か。
聞いたことがない星座だ。
「....何か意外だな。俺はてっきり乙女座が好きなのかと」
「あはは。たしかに乙女座はロマンティックだもんね。だけど、私にとっては眩しすぎて親近感が沸かないよ....」
「ならカリーナ座が好きなのも親しみやすさからか?」
「うん、それも一つ。けど竜骨の魅力はそれだけじゃないよ。まず、普段は見えないけど船をささえ――――」
彼女の熱量に圧倒され、話に少しついて来れない。
だが、彼女の元気が出たので安心する。
「――――」
ルーナが夢中に喋る中、ふと別のことが浮かぶ。
それは、A級勇者ヤクのこと。
そもそも魔王軍が攻め込んできたのは、彼が魔境の森に来たことが発端だ。
なら、彼はなぜこの森に来たのだろうか?
偶然か、あるいは――
全ての出来事は一本で繋がっているのかもしれない。
............................。
...........。
....。
まぶたが重くなる。思考もままならない。
「だから私はカリーナ座が好きなんだ。......って、聞いてる?」
「あぁ....。ちゃんと.......きい...て――」
「あっごめん。もう寝たかったよね」
睡魔に耐え切れず、まぶたを閉じる。
「..............ありがとうね。....私に思い出をくれて」
俺の頭に手の感触が.....。
そして、優しく撫でられる。
「おかげで全てを丸く収める覚悟ができたよ」
俺はその言葉を聞くことはなかった。
奴の情報が頭に入ってくる。
....魔力3000か。
やはり精鋭なだけはある。
....5大ステータスは
攻撃1000、防御800、魔法400、魔防200、速さ600
(勝てない相手ではないな)
だが、ビットナイトに気づかれないよう音を立てずに殺す必要がある。
丁度良い機会だ。
スキルで試したいことがあるため、こいつで検証しよう。
「召喚」
分身を一体、召喚。
オーガの元へと突撃させる。
「....誰だ!?」
オーガが分身に反応する。
「.....なんだ。ただのオークか」
分身が鉈をオーガに振り下ろす。
しかし、その攻撃は容易に防がれた。
「....身の程知らずが。その程度の魔力で勝てるわけなかろう」
よし。
作戦通り、奴の注意は完全に分身に注がれている。
その隙に、オーガの後ろへと静かに回り込む。
全魔力5600を”攻撃”に振る。
そして剣を抜き、奴の背後に急接近。
――腹を貫いた。
「ごふっ!!げは――」
振り返るオーガ。口から紫色の血を垂れ流している。
「き.....さ.....ま。卑怯.....だぞ」
「.....力の前貸し」
俺はオーガを無視し、スキル検証を開始。
奴の隣に負債プロンプトが現れる。
だがオーガに入り込む漆黒色の魔力の流れがすぐ止まった。
貸し出す魔力は、相手のHPと比例するからだ。
つまり、既に瀕死のオーガには少量しか貸し出せない。
「...貸し出せた魔力は10か」
今回の目的は魔力を奪うことではない。
だから、少量でも問題はない。
突き刺した剣を引っこ抜く。
すると、オーガがふらふらし始めた。
すかさず俺は奴の首筋に剣を当てる。
「貴様の....目的は...一体なんだ」
「この森を生きて抜けることだ」
「....馬鹿..め。この森の...出口には....大軍で塞がっている。....生きて抜けることなど.....不可能だ」
再び、ガサゴソと音が鳴る。
ルーナが真っ青な顔で近づいてきた。
奴の発言を聞いて、居ても立っても居られなくなったのだろう。
「.....貴様は....ルーナ。....なるほど、....手を..組んだわけか。...だからこの遺跡...付近に」
オーガは、血を吐きながらも憎しみの籠った顔で彼女を睨む。
「貴様のせいだ。貴様のせいで俺たちの部下は....全員死ぬ」
「....どういうことだ?」
「森に派遣された魔王軍は、いわばルーナと接触する可能性のある者達。もしこの女が機密を話せば、無理やり共犯者を作ることも出来てしまう」
....確かに機密が、末端にまで渡るのはかなりのリスクだ。
もし共犯者になった兵士が逃亡した場合、機密が魔王軍の外部に漏れる可能性が飛躍的に高まる。
「だから魔王様は、この森に来た下っ端を捨て駒として処分する計画を立てた」
最後の力を振り絞るように、声を張り上げる。
「ルーナ。全ては貴様のせいだ。貴様が逃げ出さずに自死していれば、部下たちは死なず――」
言い切る前に、オーガの腹を完全に貫き穴を空ける。
すると、相手の負債プロンプトが消えた。
....どうやら、殺すと魔力の利子は奪えなくなるようだ。
「...............」
後ろを振り返ると、ルーナの顔は沈んでいた。
「....あれはただの八つ当たりでしかないんだ。あいつの言葉を真に受けるなよ」
「.........うん」
彼女は、今にも消え入りそうな声で返事をするのだった。
▽
オーガの遭遇から、俺は新たな対策を考えた。
まず、全ての分身を召喚。
2つの命令をする。
一つは、索敵だ。
俺とルーナが円の中心になるようにオークを配置。
分身と自分の距離は2km離れているため、敵との遭遇を交わすことができる。
見つけた際は分身自身が再度、俺の場所に召喚移動することで情報が伝達される仕組みだ。
そして2つ目は、経験値稼ぎ。
遭遇したのが魔王軍ではなく魔物だった場合、狩るよう命じた。
分身が稼ぐ魔力は全部自分に捧げられるためだ。
これにより、自動的に俺に不労魔力が入ってくる。
「――――」
歩くことさらに数時間。
今の位置は、遺跡にかなり近い場所。
ただ、日は完全に暮れ辺りは真っ暗になった。
「今日はここまでにするか」
「うん、そうだね」
寝どころの準備に取り掛かる。
すると、ふと気になることができた。
「なぁ、遺跡にこれまで侵入者っていたのか?」
「.....うん、いたよ。でも、その遺跡から帰ってきた人達はいないけど」
「.......やっぱり遺跡の中には何か仕掛けがあるのか」
「うぅーん。仕掛けというよりは、魔物がたくさん潜んでいる感じだよ」
......魔物。
勝手な憶測だが、こんな場所にやってくる者達は腕もそれなりのものだろう。
だから侵入者が皆、魔物にやられたというのは違和感がある。
「.....ルーナ、遺跡について詳しく教えてくれないか?」
「.......分かった」
彼女の姿勢が正される。
「えっと....。まず、肝心の禁書は遺跡の最下層に保管されていて.....。侵入者になるべく取られないように、守りも工夫されているんだ」
「そうか。魔物達の配置も、守りの役割を担っているという訳だな。最下層への行く手を阻むための」
「.....うん。ただ、問題はその数。遺跡の中は四階層あるんだけど、一階層につき、魔物が400体敷き詰められているの」
「.......400体」
遺跡にほとんど逃げ場などなさそうだ。
「.....しかも一体の魔物の魔力は最低でも1000以上」
「....最低でもってことは、さらに上がいるってことか?」
ルーナが顔を縦に振り、肯定を示す。
「.....全階層合わせて、魔力5000の魔物が数百体いるかな」
魔力5000。
俺の現在の魔力量と同等の者達。
そんな奴らが数百体も........。
なるほど......。侵入者が生きて帰れない訳だ。
「でもそれも、魔王側にとっては時間稼ぎに過ぎない」
「.......えっ?まだ、何かあんのか?」
「実は遺跡に入った瞬間、魔王の元に連絡が入る仕掛けになってて.....。四天王が遺跡へと派遣されるの」
「ってことは.....。侵入者が生きて出るには、数千体の魔物と四天王を相手にする訳か」
「..........うん」
俺は少し魔王を侮っていた。
まさか、遺跡をそこまで厳重に保管しているとは。
奴の用心深さはけた違いだ。
ただ、だからこそ疑問が生まれる。
「....なぁ、一つ気になることがある」
「えっ、どんな事?」
「遺跡の魔物達が侵入者だけを襲うのか、どうかだ」
「うん....そうだよ?」
「ってことは仲間と敵の分別がつく、知性のある奴らってことになる」
彼女の反応を見るに、少し回りくどかったらしい。
俺は直球で疑問に思ったことを話す。
「その魔物達が本の秘密を知るリスクを、魔王はどう捉えているかが気になる」
「......その恐れはないよ。遺跡の魔物達は、魔王に自我を奪われているから。だから、秘密を共有したりはできない」
「......自我を奪ったら、敵と味方の分別がつかなくないか?」
「......それも魔王は...対策済みだよ」
ルーナは、肩を震わしている。
「幼い頃にね、魔王と遺跡に入ったことがあって....それで....。その中にいる魔物達は列を組んで静止していて、変だなと思ったの。...それを魔王に聞いたら....」
その光景がトラウマなのか、彼女の表情はかなり怯えていた。
「魔物達には、赤目の”センサー”が備えられているって.....」
「......センサーって何だ?」
「魔王だけが使える魔術のことだよ。魔力の特徴は人によって千差万別だけど、センサーはそれを捉えることができるの」
「へぇー。ってことは、そのセンサーを活用すれば識別も可能ってことだな。遺跡の中で番をする魔物達の魔力と外部からやってきた魔力、つまり侵入者とで」
「..........うん」
恐らくだが、侵入者の魔力を察知した場合のみ、魔物達を作動させているのだろう。
「あとこれは当然かもしれないけど。.......遺跡の管理者、つまりビットナイトは魔物の作動と停止を自在に操れるよ」
........設計の関連者ならではの特権ってやつか。
「でも、魔王が恐ろしいのはここからで....。センサーを備え付けられた者の目は、魔王と同じ赤目になってしまうの」
彼女の息がやや荒い。
「だから、魔王にその魔物の正体を聞くまでは、魔王軍の仲間だって気づけなかった」
「.....ルーナ?」
「私も何か失態を犯したら、同じように遺跡をさまようだけの存在になるかもと思うと――」
「ルーナ!!」
「えっ?」
彼女の顔にはダラダラと汗が滲む。
目の焦点が少し合っておらず、軽くパニックな様子だ。
「悪い。嫌なことまで思いださせて。.....途中で止めるべきだった」
「.........私の方こそ、取り乱しちゃってごめんなさい」
少し冷静さを取り戻したものの、表情はかなり疲弊している様子だ。
「......今日はもう寝た方がいい」
「...........うん。そうさせてもらうね」
ルーナは体を仰向けに倒す。
しかし、中々目を閉じない。
「................眠れないか?」
自分も隣で横になる。
「えっと....。それもあるけど、少しでも星空が見ないかなって。すごく落ち着けるから」
.....ここは空を覆うように、木々の葉が生い茂っている。
星空を見ることは不可能に近い。
だがそんなこと、一年もこの森にいた彼女が一番よく分かっているはず。
それでも、星を探すということは......。
「星、好きなんだな」
「......うん。星座を探すことが、私の唯一の生きがいだから」
「へぇー、星座か」
「あの.....。好きな星座とかはあったりする?」
さっきと打って変わり、ルーナの表情は少し明るくなった。
「あぁー、ごめん。俺、あんまり星座に詳しくないんだよな。ルーナは好きなのとかあるのか?」
「私はカリーナ座が好きかな」
...カリーナ。竜骨か。
聞いたことがない星座だ。
「....何か意外だな。俺はてっきり乙女座が好きなのかと」
「あはは。たしかに乙女座はロマンティックだもんね。だけど、私にとっては眩しすぎて親近感が沸かないよ....」
「ならカリーナ座が好きなのも親しみやすさからか?」
「うん、それも一つ。けど竜骨の魅力はそれだけじゃないよ。まず、普段は見えないけど船をささえ――――」
彼女の熱量に圧倒され、話に少しついて来れない。
だが、彼女の元気が出たので安心する。
「――――」
ルーナが夢中に喋る中、ふと別のことが浮かぶ。
それは、A級勇者ヤクのこと。
そもそも魔王軍が攻め込んできたのは、彼が魔境の森に来たことが発端だ。
なら、彼はなぜこの森に来たのだろうか?
偶然か、あるいは――
全ての出来事は一本で繋がっているのかもしれない。
............................。
...........。
....。
まぶたが重くなる。思考もままならない。
「だから私はカリーナ座が好きなんだ。......って、聞いてる?」
「あぁ....。ちゃんと.......きい...て――」
「あっごめん。もう寝たかったよね」
睡魔に耐え切れず、まぶたを閉じる。
「..............ありがとうね。....私に思い出をくれて」
俺の頭に手の感触が.....。
そして、優しく撫でられる。
「おかげで全てを丸く収める覚悟ができたよ」
俺はその言葉を聞くことはなかった。