相棒をS級勇者に奪われた俺、スキル【力の前貸し】で勇者を破滅へ導く!~全てを負債地獄に叩き落とし、新たな魔王として君臨する!
第26話 恩を引き継いで
俺の体が何かに揺らされる。
まぶたを空けると、目の前にオークの顔が。
「............どうした!?」
何かあったから伝えに来たのだろう。
意識がすぐに覚醒する。
「ブォ――」
不思議な感覚だ。
オークとは言語が違うはずなのに、なぜか伝わる。
これも隷属という関係で繋がったからか?
「....なるほど。北西2kmの方角から、大きな魔力を持った人間がこちらに近づいてくると」
.....さて、どうするか。
もし、そいつと戦うことになった場合ルーナが巻き添えになるかもしれない。
隣を見ると、彼女はまだ寝ている。
――ここは一人で向かった方がよさそうだ。
俺は召喚と唱え、もう一匹オークを呼び出す。
「お前らに命令がある。手前の分身は、ルーナの護衛。そしてもう一匹は何か異常なことがあった場合、俺のところへ再召喚し伝えろ」
2匹のオークが頷く。
その後、俺はすぐさま北西2kmのほうへ向かった。
▽
距離は2kmだ。
魔力を上乗せして走ることで、すぐ目的の場所へたどり着く。
赤の長帽子に、ロングな髪。
そして、フェイスラインのあごヒゲ。
間違いない、A級勇者のヤクだ。
「お久しぶりですね、ヤクさん」
年は15の俺より2倍以上年上だ。
だから、いかに同期とは言え敬語を使っている。
「そうだな、リザヤ。俺がローシャ王国を抜け出して以来だ」
正直、大きな魔力がヤクだと分かり安心している。
彼とは仲が良く戦うことは、ないのだから。
「二つ質問があるのですが、よろしいですか?」
「あぁ、構わないぞ」
「ヤクさんは、どうして魔境の森に?....そして、俺と遭遇したのは偶然ですか?」
「....そうだな。何から話せばいいか....」
彼は何か考える素振りをした後、口を開く。
「まず、お前と遭遇したのは偶然ではない。ある魔道具を使ってここへ来た」
......魔道具で?
相手の位置情報が分かるなんて聞いたことがないぞ。
「そして、なぜこの森に来たのかについてだが.....」
俺は思わず唾を飲み込む。
ヤクが魔境の森に来たことが、この事件の全てのきっかけだからだ。
なにか相当な理由が――
「リザヤ。お前の”力の前貸し”が覚醒したからだ」
「............え?なぜそれをヤクさんが知っているんですか?」
俺に隠されたスキルがあったことは誰にも言ってなかった。
そして、それは覚醒してからも同じく。
「まぁ、詳しく話せば長くなってしまう。だから覚醒を知っている理由を端的に言うと、俺がルザード一族の末裔だからだ」
「...........ヤクさんが、大罪を犯した一族」
一気に大きな情報がやってきて、頭が混乱する。
一度、整理しよう。
まず彼は謎多き一族の一人で、なぜか力の前貸しを知っている。
そして、覚醒した俺がこの森にいたから彼もここへ来た。
「......あの。....もしかして、力の前貸しとルザード一族には何か関わりが?」
「....鋭いな。前から思っていたが、お前はかなり頭が良い」
「ヤクさんに褒めて貰えて光栄ですよ。.....それでやっぱりそうなんですか?」
ヤクは首を縦に振り、肯定した。
「お前の言う通り、力の前貸しは俺のご先祖様と関わりがあるらしい。俺は末裔だから詳しい事情は知らんがな」
「.....なるほど。.......それでヤクさんは俺にどういったご用件で?」
「あぁ、脱線させてすまないな。単刀直入に言うと、”力の前貸し”の件について話がしたい」
.......本来なら、願ってもない提案だ。
謎だらけだったスキルの秘密が知れる可能性があるのだから。
――しかし、状況が状況だ。
俺たちは、魔王軍に追われていてそれどころではない。
「.......すみません。今、魔王軍に追われているので別の機会にしたいです」
ヤクは薄々分かっていたのか、肩をすくめた。
「.....分かった。ならまた別の場所で待ち合わせしよう」
そう言うと、彼は地図を取り出し何かの印をつける。
そして俺のところに近づき、地図を差し向けた。
「そのバツ印のついたところが集合地だ」
「.......はい。わかりま――」
頷き、地図を受け取ろうとした時。
唐突に召喚が発動した。
「ブオ――」
分身が必死に伝えてくる。
ルーナが単独でどこかへ向かっていると。
「......それは、本当か!?」
疑う俺に分身もまた、”ある紙”を差し出す。
(...これはルーナが使ってた地図)
すぐさま裏返すと、そこにはメッセージが綴られていた。
――――思い出をくれた貴方へ
まずはじめに、私が一人で勝手な行動を取ること。
そして、案内をする約束を守らないこと。
本当にごめんなさい。
これらは貴方の信用を無下にする、最低の行為だと自覚しています。
けれど私は、貴方を裏切ってでも遺跡に向かうべきだと思いました。
そうすれば、”ビットナイト”に私が侵入していることを伝えることができます。
魔王の目的はあくまで私。
なので、その死体を確認できればすぐさま軍も撤退するはずです。
つまり、貴方だけは巻き込まずに済む。
だからお願いです。
どうか私を追わないでください。
貴方は私にとって唯一の希望だから。
――――ルーナより
......ばかやろう。
「ヤクさん。話の途中ですみませんが、急用ができたので俺はこれで」
すぐさま、遺跡に向かおうとヤクに背を向ける。
「.........どうした、何かあったのか?」
「仲間の一人が四天王相手に、自殺しようとしているんです。だから止めてきます」
ヤクに肩を捕まれる。
「今のお前では四天王は倒せない。無駄死にするだけだ」
「.......見捨てるべきと?」
「お前の仲間には酷だが、それが最善だろ」
「......................」
「前貸しは強力な力だ。だからいつかは、必ず奴を倒せる。今は焦らず力を蓄える時と思え」
「確かにそれが賢い選択なのかもしれません」
彼に捕まれた手をそっと振りほどく。
「けど、俺には......。こんな自分のことを助けてくれた存在がいたんです」
聖女のレミーシャさんは、国から追放された俺に居場所をくれた。
相棒のフォンは、俺に安らぎと生きる活力を与えてくれた。
彼らからすれば、自分を見捨てた方がプラスだったかもしれない。
それなのに俺のことを助けてくれた。
「仲間は、過去の俺の現状とよく似ています」
ヤクの方へ振り返る。
「それを見捨てるということは、恩人たちを否定する行為だ」
――――だからこそ
助けられた俺だけは、無下にするわけにはいかない。
「......分かった。お前の覚悟は十分伝わった」
ヤクも背を向けた。
「.......死ぬなよ」
「......それは....分かりません。ただ、最善は尽くします」
俺たちは別々の方向へと走り去った。
◇ルーナ
深い草木と岩に包まれた場所に、地下への隠し通路が隠されている。
そこの一本道を通り過ぎると、見えてきた。
――――遺跡の扉の入り口が
目の前に立つと、途端に足が震える。
臆病で死ぬことを恐れているからだ。
一度、大きく深呼吸。
(....大丈夫。私はちゃんとやり切れる。あの人の為だと思えたら.....)
自己暗示で落ち着かせ、扉を開けた。
そして、足を踏み入れる。
「..............」
辺りは薄暗く、目をこらさないと良く見えない。
奥へと進むと、突如複数の目が赤く光り出す。
センサーが作動し、魔物達が覚醒した。
「「グオオオオオおおお!!」」
数十匹の魔物はまず、扉の方へと集まる。
逃げ場を塞いだのだ。
そして、4体の魔物が私に飛び掛かった。
「っ――――」
咄嗟に交わしてしまう。
駄目だ。
私は臆病なままだった。
「......死にたくない」
無意識に声に出してしまう。
視界が歪み、涙で溢れる。
――――その時だった。
「うっ......あ」
一匹の魔物が私の腹を切り裂いた。
まぶたを空けると、目の前にオークの顔が。
「............どうした!?」
何かあったから伝えに来たのだろう。
意識がすぐに覚醒する。
「ブォ――」
不思議な感覚だ。
オークとは言語が違うはずなのに、なぜか伝わる。
これも隷属という関係で繋がったからか?
「....なるほど。北西2kmの方角から、大きな魔力を持った人間がこちらに近づいてくると」
.....さて、どうするか。
もし、そいつと戦うことになった場合ルーナが巻き添えになるかもしれない。
隣を見ると、彼女はまだ寝ている。
――ここは一人で向かった方がよさそうだ。
俺は召喚と唱え、もう一匹オークを呼び出す。
「お前らに命令がある。手前の分身は、ルーナの護衛。そしてもう一匹は何か異常なことがあった場合、俺のところへ再召喚し伝えろ」
2匹のオークが頷く。
その後、俺はすぐさま北西2kmのほうへ向かった。
▽
距離は2kmだ。
魔力を上乗せして走ることで、すぐ目的の場所へたどり着く。
赤の長帽子に、ロングな髪。
そして、フェイスラインのあごヒゲ。
間違いない、A級勇者のヤクだ。
「お久しぶりですね、ヤクさん」
年は15の俺より2倍以上年上だ。
だから、いかに同期とは言え敬語を使っている。
「そうだな、リザヤ。俺がローシャ王国を抜け出して以来だ」
正直、大きな魔力がヤクだと分かり安心している。
彼とは仲が良く戦うことは、ないのだから。
「二つ質問があるのですが、よろしいですか?」
「あぁ、構わないぞ」
「ヤクさんは、どうして魔境の森に?....そして、俺と遭遇したのは偶然ですか?」
「....そうだな。何から話せばいいか....」
彼は何か考える素振りをした後、口を開く。
「まず、お前と遭遇したのは偶然ではない。ある魔道具を使ってここへ来た」
......魔道具で?
相手の位置情報が分かるなんて聞いたことがないぞ。
「そして、なぜこの森に来たのかについてだが.....」
俺は思わず唾を飲み込む。
ヤクが魔境の森に来たことが、この事件の全てのきっかけだからだ。
なにか相当な理由が――
「リザヤ。お前の”力の前貸し”が覚醒したからだ」
「............え?なぜそれをヤクさんが知っているんですか?」
俺に隠されたスキルがあったことは誰にも言ってなかった。
そして、それは覚醒してからも同じく。
「まぁ、詳しく話せば長くなってしまう。だから覚醒を知っている理由を端的に言うと、俺がルザード一族の末裔だからだ」
「...........ヤクさんが、大罪を犯した一族」
一気に大きな情報がやってきて、頭が混乱する。
一度、整理しよう。
まず彼は謎多き一族の一人で、なぜか力の前貸しを知っている。
そして、覚醒した俺がこの森にいたから彼もここへ来た。
「......あの。....もしかして、力の前貸しとルザード一族には何か関わりが?」
「....鋭いな。前から思っていたが、お前はかなり頭が良い」
「ヤクさんに褒めて貰えて光栄ですよ。.....それでやっぱりそうなんですか?」
ヤクは首を縦に振り、肯定した。
「お前の言う通り、力の前貸しは俺のご先祖様と関わりがあるらしい。俺は末裔だから詳しい事情は知らんがな」
「.....なるほど。.......それでヤクさんは俺にどういったご用件で?」
「あぁ、脱線させてすまないな。単刀直入に言うと、”力の前貸し”の件について話がしたい」
.......本来なら、願ってもない提案だ。
謎だらけだったスキルの秘密が知れる可能性があるのだから。
――しかし、状況が状況だ。
俺たちは、魔王軍に追われていてそれどころではない。
「.......すみません。今、魔王軍に追われているので別の機会にしたいです」
ヤクは薄々分かっていたのか、肩をすくめた。
「.....分かった。ならまた別の場所で待ち合わせしよう」
そう言うと、彼は地図を取り出し何かの印をつける。
そして俺のところに近づき、地図を差し向けた。
「そのバツ印のついたところが集合地だ」
「.......はい。わかりま――」
頷き、地図を受け取ろうとした時。
唐突に召喚が発動した。
「ブオ――」
分身が必死に伝えてくる。
ルーナが単独でどこかへ向かっていると。
「......それは、本当か!?」
疑う俺に分身もまた、”ある紙”を差し出す。
(...これはルーナが使ってた地図)
すぐさま裏返すと、そこにはメッセージが綴られていた。
――――思い出をくれた貴方へ
まずはじめに、私が一人で勝手な行動を取ること。
そして、案内をする約束を守らないこと。
本当にごめんなさい。
これらは貴方の信用を無下にする、最低の行為だと自覚しています。
けれど私は、貴方を裏切ってでも遺跡に向かうべきだと思いました。
そうすれば、”ビットナイト”に私が侵入していることを伝えることができます。
魔王の目的はあくまで私。
なので、その死体を確認できればすぐさま軍も撤退するはずです。
つまり、貴方だけは巻き込まずに済む。
だからお願いです。
どうか私を追わないでください。
貴方は私にとって唯一の希望だから。
――――ルーナより
......ばかやろう。
「ヤクさん。話の途中ですみませんが、急用ができたので俺はこれで」
すぐさま、遺跡に向かおうとヤクに背を向ける。
「.........どうした、何かあったのか?」
「仲間の一人が四天王相手に、自殺しようとしているんです。だから止めてきます」
ヤクに肩を捕まれる。
「今のお前では四天王は倒せない。無駄死にするだけだ」
「.......見捨てるべきと?」
「お前の仲間には酷だが、それが最善だろ」
「......................」
「前貸しは強力な力だ。だからいつかは、必ず奴を倒せる。今は焦らず力を蓄える時と思え」
「確かにそれが賢い選択なのかもしれません」
彼に捕まれた手をそっと振りほどく。
「けど、俺には......。こんな自分のことを助けてくれた存在がいたんです」
聖女のレミーシャさんは、国から追放された俺に居場所をくれた。
相棒のフォンは、俺に安らぎと生きる活力を与えてくれた。
彼らからすれば、自分を見捨てた方がプラスだったかもしれない。
それなのに俺のことを助けてくれた。
「仲間は、過去の俺の現状とよく似ています」
ヤクの方へ振り返る。
「それを見捨てるということは、恩人たちを否定する行為だ」
――――だからこそ
助けられた俺だけは、無下にするわけにはいかない。
「......分かった。お前の覚悟は十分伝わった」
ヤクも背を向けた。
「.......死ぬなよ」
「......それは....分かりません。ただ、最善は尽くします」
俺たちは別々の方向へと走り去った。
◇ルーナ
深い草木と岩に包まれた場所に、地下への隠し通路が隠されている。
そこの一本道を通り過ぎると、見えてきた。
――――遺跡の扉の入り口が
目の前に立つと、途端に足が震える。
臆病で死ぬことを恐れているからだ。
一度、大きく深呼吸。
(....大丈夫。私はちゃんとやり切れる。あの人の為だと思えたら.....)
自己暗示で落ち着かせ、扉を開けた。
そして、足を踏み入れる。
「..............」
辺りは薄暗く、目をこらさないと良く見えない。
奥へと進むと、突如複数の目が赤く光り出す。
センサーが作動し、魔物達が覚醒した。
「「グオオオオオおおお!!」」
数十匹の魔物はまず、扉の方へと集まる。
逃げ場を塞いだのだ。
そして、4体の魔物が私に飛び掛かった。
「っ――――」
咄嗟に交わしてしまう。
駄目だ。
私は臆病なままだった。
「......死にたくない」
無意識に声に出してしまう。
視界が歪み、涙で溢れる。
――――その時だった。
「うっ......あ」
一匹の魔物が私の腹を切り裂いた。