相棒をS級勇者に奪われた俺、スキル【力の前貸し】で勇者を破滅へ導く!~全てを負債地獄に叩き落とし、新たな魔王として君臨する!

第34話 星空の下で願いを込めて

◇ルーナ

「........隊長、解散とはどういうことですか!?」

先ほどまで膝を落としていた兵士が立ち上がり、問い詰める。

「.......そのままの意味だ。この瞬間を以ってお前たちは魔王軍ではない。自由だ」

「そんな言葉では納得できません!.....魔王様を裏切るおつもりですか!?」

「.....裏切る?先にそうしたのは、向こうの方だ」

事実を言われ、兵士は押し黙る。

「裏切者か、部下の命か。.....どちらかを選ぶとしたら答えは明白だろ?」

そう兵士に伝えると、集団の方へと近づいていった。
まだ解散に対しての混乱が収まっていない様子だ。

「静粛に!」

隊長の声に、一時声が止む。

「我々は今、危機的な状況下にいる!」

「「.................!」」

ここからの距離では、兵士たちの顔は薄暗くてよく見えない。
しかし、それでも異様な緊張感は私にまで伝わってきた。

「トップの魔王が敵となったのだ。もはや、任務を遂行している場合ではない」

「では、私達はどうすれば......」

集団の中の兵の一人がそう投げかける。
そこには、行き場のなくなった感情が込められていた。

「お前たちが優先すべきことは唯一つ。直ちに軍を解散し、少しでも生存率を上げること」

一間置いて、隊長が呼吸を吸い込む。

「これは俺からの最後の命令だ」

「「...................」」

「誰一人死ぬことなく生涯を全うしろ。....分かったな?」

「「はいっ!」」

兵の中で、ある者は泣く時、特有のすすり声でそう応えた。

「解散!!」

隊長の合図で、集団が一気にばらけていく。
出口を塞いでいた兵たちも次々と、走り去っていった。
........部下とは対照的に、隊長はその場に残っている。

「.........おい、貴様」

そして、彼に声をかけてきた。

「最初から軍の崩壊を計画していただろ」

「........さぁな。あんたの想像にお任せする」

ククッと体を震わしながら、笑う相手。

「......底の知れぬ男だ。....我が生きていたら、貴様の行く末を楽しみにさせてもらうぞ」

そう言い残し、出口とは反対側の森の奥へと去っていった。
隊長もいなくなったことで、この場にほとんどの兵士が残っていない。
――ビットナイトを心酔していた、あの兵以外は

「あんたは逃げないのか?」

彼が唯一残った兵に声を掛ける。

「......お前に頼みたいことがあったから、ここに残った」

「.....俺に頼み?」

「そこのオークが持っている、遺体を譲ってほしい」

兵は覚悟を決めた表情で、ビットナイトの生首を見つめる。

「この生首をどうするつもりだ?」

「....埋めるんだ、メレシス様の墓のお側に」

「.....メレシス?」

「.....あぁ、あのお方が婚約なされた女性だから」

彼の問いにギュッと拳を握りながら、そう応えた。

「俺は愚かだから、ビットナイト様が俺たちを殺そうとしたなんて信じられない。.....けれど――」

そこで初めて、兵士が顔を上げ彼を睨みつけた。

「彼女を埋めたのは俺だ。だから、ビットナイト様の遺体の状況と酷似していることぐらいは気づく」

「..............」

「お前なんだろ、あのお二方の未来を奪ったのは!?」

「.....そうだとしたらどうする。....俺に復讐するか?」

兵士は首を横に振り、否定する。

「本当は今すぐにでも、お前を殺したい。....だが、俺の実力じゃ返り討ちにあうだけだ」

悔しそうに顔を歪ませた。

「自分が死ねば、メレシス様の墓を知る者は残っていない。そうなれば、二人は永遠に離れ離れのままになる」

兵士が彼に近寄り、胸ぐらを掴む。

「それだけは絶対に阻止するのが、ビットナイト様の部下だった俺の最後の任務だ!」

「......分身、その首をこの忠義者に渡せ」

オークが兵士の元へ駆け寄り、ビットナイトを差し出す。
彼の胸ぐらを離し、受け取った。
忠義者は、その首を大切そうに抱えながら歩き出す。
忠誠を誓う者が、愛した墓の方へと。

「ビットナイトは、お前たちを殺すことにかなりの葛藤を抱えていた」

彼の発言に、背を向け歩いていた兵士が振り返る。

「奴は死の間近に、メレシスを呼ぶ以外にもお前たちを殺さずに済むことの安堵を漏らしたんだ」

「.............!!」

その言葉に兵士の瞳は涙で溢れ――
そして、走り去っていった。

彼は、あの兵士の忠義を無下にせず最大限尊重した。

――貴方は悪魔なんかじゃないよ
他の誰がそう罵ろうと、私だけは彼を見つめ続けたい。
だから、私はある決心をする。

 ▽

◇リザヤ

上の視界を覆っていた木々を抜ける。
魔境の森を出ると、視界には満天の星空が広がっていた。

「......きれい」

ルーナが、ぽつりと呟いた。

「......もう一生、見れないかと思った」

あまりの絶景に感極まったのか、声が震えている。

「私をここまで連れて来てくれて、本当にありがとう」

彼女が振り返り、涙ぐみながらも礼を言う。
だから、俺もお礼を返した。

「...俺の方こそ、案内してくれて助かった。一人なら今頃、遭難していたかもしれねぇから」

「......うんっ、どういたしまして」

ルーナは曇り一つない笑顔でお礼を受け止めた。
その後、再び上を向き星を眺める。

「あっ、見て!」

「......ん、どうした?」

吊られて俺も上を向く。
しかし、特段変わったことはない。

「今、流れ星が流れたんだよ」

嬉しそうに、笑っている。

「あっ、今度はあっちを見て!」

彼女の指さす方角を見る。

「あれが、私の好きな星座だよ」

.......ルーナの好きな星座。

「あぁ、竜骨《カリーナ》座か」

「うんっ。.......どう、かな?」

竜骨|《カリーナ》は船にとって、見えない柱となって支えてくれる重要なパーツらしい。
だが、実物を見ると.....。

「悪い。正直に言うと、ただの点の集まりにしか見えない」

「あ~!その発言は、星座好きな人を敵に回しちゃうよ」

頬を膨らませながら、こちらを不満げに見る。
....初めて見る表情だった。

「もうっ.....。しょうがないから、私が星座の見方を教えるね」

こちらに近づき、体が触れる。

「えっと、まずこの点とあの点を線で繋いで――」

いつもより目を輝かせながら、楽しそうに語る。

――良かったな、ルーナ。
普段、大人しい彼女がはしゃぐ姿を見て心からそう思った。

....これでルーナに対する俺の役目は、一つ終えたと言っていい。

せっかく自分の人生を、手に入れようとしているのだ。
復讐の道を進む俺と、これ以上一緒にいるべきではないだろう。
あとは魔王軍の索敵が無い場所まで、連れていって――

「――て、聞いている?」

「!?」

.....まずい。
前と同じく、考え事をして聞いていなかった。
だが、馬鹿正直に言うと彼女の機嫌を損ねてしまう。
ここは――誤魔化すしかない。

「あぁ、勿論聞いてたぞ」

「えぇ~。本当かな~」

ルーナは俺をじーっと凝視。

「前に星座の話をしたときも、居眠りされちゃったし...」

口に手を添え、少しいたずらぽっく笑っている。

「傷ついちゃったし、代わりにお願いを聞いてくれる?」

「......何がお望みだ」

すぅーと、一度、彼女は深呼吸した。
からかうような笑みから、すべてを包み込むかのような柔和なほほ笑みに変わる。

「貴方を、私の好きな名前で呼ばせて」

....心の波が激しくざわつく。
当の昔に閉ざした、成就されるはずのない望み。

「大好きな星座のカリーナから取って、”カリヤ”君って呼びたいな」

「どう....して」

人の好意から名付けられる等、俺には決してあり得ないことだ。
周りの悪意や憎悪から俺は生まれたのだから。

「どうしてその名前を.....」

「えっと、それは.....」

ルーナは指同士を組みながら、少し照れたような素振りをする。

「カリーナは船を支えるかけがえのない部分だから、貴方にぴったりだと思って....」

「よせよ。俺は、卑怯な知恵で他者を踏みにじるリザヤ――」

..........!?
その瞬間、ルーナに抱きしめられる。

「貴方は卑怯でも、増してや悪魔なんかでもない」

耳元で優しく囁かれた言葉は、俺の心の隙間に入り込んだ。

「私にとってカリヤ君は――」

抱きしめる力が強まる。

「生きる希望をくれた、かけがえのない存在だよ」

....究極の肯定を受け、冷え突いた心が溶けていく。
頬を一筋の涙が伝う。
それは自分が作り上げてしまった、リザヤという呪縛からの解放だった。
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