相棒をS級勇者に奪われた俺、スキル【力の前貸し】で勇者を破滅へ導く!~全てを負債地獄に叩き落とし、新たな魔王として君臨する!
第33話 駆け引き
◇桃髪の女
....じっと目を瞑っている間。
先ほど彼が紡いだ言葉が、頭に浮かぶ。
『大切なものを奪った奴らに、ツケを何倍もの利子にして払わす――リザヤだ』
発する声は、極限の憎悪と悲しみで満ちていた。
.......大切なもの。
彼はかけがえのない存在がいたと聞いている。
.....もしかしたら復讐が最大のもくて――
「もう目を開けてもいいぞ」
不意に掛けられる言葉に推測が止まる。
「........えっ?」
目を開けると、そこにはあったはずの遺体がない。
「.......ビットナイトが消えた?」
「あぁ。これは、分身が奴を掴んで召喚を解除したからだ」
ということは、分身と一緒に遺体を送還先に移動させた?
.....彼の意図は読めないが、きっとこの行動にも意味があるのだろう。
「ルーナ」
背を向けていた彼が、こちらを振り返る。
「ここから森の出口まで、どれくらいの時間がかかる?」
「今から歩いたら.....六時間は掛かっちゃうかも。日も暮れているだろうし...」
「そっか。なら良かった」
そこで彼の顔つきは優しいものへと変わった。
「それなら森を抜けるのと同時に、満点の星空が見られそうだな」
「......っ!!」
....嬉しい。
憎しみに染まりながらも、私の夢を考えてくれていたなんて。
「――うんっ、そうだね」
「よしっ、なら早速出発するか」
▽
私達は、薄暗い森の中を淡々と進む。
途中、休憩を挟みながらも歩いて、歩いて、歩き続けた。
すると、森の出口がようやく見えてきた。
しかし――
その出口は数百の兵隊。
やはり、大勢の魔王軍が包囲していた。
「止まれっ」
部隊の隊長らしき者に呼び止められる。
鳥のような鋭い目つきとくちばしが特徴の魔物だ。
.....当たり前だが、私を魔王の娘とは気づいていない。
「.....俺たちに何か用か?」
進路を邪魔する魔王軍に、彼は問いかけた。
「貴様らには悪いが、上からこの森にいる人間たちを殺せと命令が入った」
隊長が合図を送り、魔王軍が一斉に構えの姿勢に入る。
「その命、頂戴させていただく」
敵の脅しに、彼は眉一つ動かさない。
「...........召喚」
彼のそばの地面に魔法陣が浮かび上がる。
分身のオークが召喚された。
その光景に、魔王軍たちの間で衝撃が走る。
けれど、降り注がれる視線は分身ではない。
別にあった。
「.......ビットナイト様!!」
召喚された分身が、ビットナイトの首を掲げていたためだ。
「命令した上司はもう死んだ。.....それでもお前たちは命令を貫くのか?」
彼が一気に漆黒のオーラを放出する。
あまりの禍々しいオーラにほとんどの者が後ずさった。
辛うじて、リーダーだけがその場で耐えている状況。
「一つ、良いことをを教えてやる」
張り詰めた空気が周囲を漂う。
誰も彼の言葉を邪魔することはできなかった。
「この生首は、お前たちの命をここで切り捨てるつもりだった」
数百の兵隊の間で動揺が走る。
衝撃を受ける者、嘘だと思う者など反応は十人十色だった。
......とそこで、魔王軍の雑兵の一人が前に出てくる。
「.......でたらめを言うのはやめろ。仲間想いの、あのお方に限ってそんなことあるはずがない!」
真実を受け、その者は怒りを露わにしていた。
「メレシス様が殉職なされた時も、自分の責任と背負い込んでしまうようなお方なんだぞ。.....貴様なんかにビットナイト様のなにが分か――」
「私語を慎め」
隊長が部下の言葉を遮った。
「これ以上、続けるのなら軍機違反として貴様を処罰する」
「.........!!」
隊長の言葉に我に返ったのか、頭を下げた。
「規律を乱すような行動を取ったこと、深く謝罪します」
――だが、兵士はそこから動かない。
「ただ、あの人間は何も根拠が無いのにビットナイト様を侮辱した。黙って引き下がることもできません!」
「........愚か者め。あの男の話に恐らく嘘はない」
「どうししてですか!?なぜ隊長である貴方まで疑うんです!?」
隊長はその問いに無視をして、彼を見やる。
「.....どうやら、リーダのあんたには信じてもらえたようだな」
「今回の作戦には違和感があったのでな。信じざるを得ん」
彼は隊長の反応に、話が通じる者と判断したのかオーラによる圧を少し緩めた。
「俺を含め、この森にいる兵のレベルは皆低い。.....つまり、使い捨てても問題ない者達を意図的に集め派遣したってことだ」
ドサッと兵士が膝を突いた。
「........嘘だ。俺たちを使い捨ての駒として見ていたなんて」
その落胆ぶりから察するに、半ば放心状態に陥っていそうだ。
「――それで人間よ」
隊長の声が一段低く、より深刻そうなトーンになった。
「味方であるはずの兵を、なぜ上がわざわざ処分する?」
何も知らない目線から考えれば、最もな疑問だ。
たとえ使い捨ての駒だとしても、利用価値はある。
しかし、魔王はわざわざ殺す判断をした。
だから隊長は、その決定の裏に何かあると踏んで質問したのだろう。
「あんたの問いに応えてやってもいいが、条件がある」
「........なるほど、取引か。それで、なにを望む?」
「まずは俺たちを見逃すこと。そして、二つ目は魔王軍の捜査範囲を明かすことだ」
「分かった。その条件を飲もう」
隊長は、兵士の一人に地図を持ってこさせた。
そして何か書いた後、その地図をこちらに投げる。
「.....そのバツ印のついた所が見張っている範囲だ」
彼はその地図を広げ、一通り目を通した。
「この情報が本当と証明できるか?」
「無理だな。こればかりは、俺を信用してもらわないと取引が成り立たない」
「そうか。なら――力の前貸し」
漆黒の魔力を隊長に流し込む。
その突発的な行動に、相手は初めて焦りを見せた。
「おい、貴様どういうつもりだ」
「あんたに、俺の魔力を貸し付けた。到底返済できない程の魔力をな」
「.....返済だと?」
「貸したものには、当然利子がつくものだろ?この魔力もそれと同じだ」
「払えなければ、どうなる?」
「あんたはそこのオークと同じように、俺に隷属化する」
「貴様、嵌めやがったな」
いつ戦いの火蓋が切られてもおかしくない、状況。
そんな中、彼が手を出し隊長に待ての合図を出す。
「ただし、あんたが裏切らなければこちらも何もしない。たとえ分身になったとしてもな」
「..............裏切った場合は、どうなる?」
「分身にとって、俺の命令は絶対だ。もし、この地図に嘘の情報があると発覚した場合――」
彼の目つきがより一層、鋭くなった。
「あんたに自害を命じる」
「.........................」
「書き直すのなら、今の内だぞ」
「........もう一度、その地図を貸せ」
彼は相手の方に、地図というパスを投げた。
......再び書き直した後、こちらにまた返ってくる。
地図を使ったキャッチボールに、幾つの駆け引きが詰まっていたのだろうか........。
私は想像することすらできなかった。
「今度は貴様が、情報を明かす番だ。......なぜ我々の殺害が計画されたのかの理由を」
「あぁ、約束通り話してやる。まず、あんたらに与えられた任務は建前で――」
彼は淡々と持っている情報を話す。
一つはA級勇者の討伐というのは口実で、本当の狙いは機密を知る私だという点。
二つ目は真の計画を明かさなかった理由は、末端が情報を漏らすリスクを防ぐためであること。
そして、魔王軍が命じられた人間蹂躙は私を知らなくても無差別で殺せるという狙いのためだと。
「だが、そうすると必然的に末端の誰かがルーナと接触することになる。その際、彼女が機密を明かせば、共犯者が増えてしまう」
「......そうか。だから魔王様は、そのリスクを抑えるために我々を処分することにしたと」
相手は、腕を組みながら何かを思案している様子。
「質問には応えてやった。....約束通り、俺たちは見逃してもらえるんだよな?」
「......................」
隊長がくちばしを開け、息を大きく吸い込んだ。
「..........第八隊に告ぐ!」
軍全体が再び構える。
上の一合図があれば、次の瞬間殺し合いが始まる。
「......本日を以って、我が隊を解散する!!」
「「...........!!?」」
しかし、出した合図は、戦闘開始ではなかった。
周囲に混乱が広がった。
....じっと目を瞑っている間。
先ほど彼が紡いだ言葉が、頭に浮かぶ。
『大切なものを奪った奴らに、ツケを何倍もの利子にして払わす――リザヤだ』
発する声は、極限の憎悪と悲しみで満ちていた。
.......大切なもの。
彼はかけがえのない存在がいたと聞いている。
.....もしかしたら復讐が最大のもくて――
「もう目を開けてもいいぞ」
不意に掛けられる言葉に推測が止まる。
「........えっ?」
目を開けると、そこにはあったはずの遺体がない。
「.......ビットナイトが消えた?」
「あぁ。これは、分身が奴を掴んで召喚を解除したからだ」
ということは、分身と一緒に遺体を送還先に移動させた?
.....彼の意図は読めないが、きっとこの行動にも意味があるのだろう。
「ルーナ」
背を向けていた彼が、こちらを振り返る。
「ここから森の出口まで、どれくらいの時間がかかる?」
「今から歩いたら.....六時間は掛かっちゃうかも。日も暮れているだろうし...」
「そっか。なら良かった」
そこで彼の顔つきは優しいものへと変わった。
「それなら森を抜けるのと同時に、満点の星空が見られそうだな」
「......っ!!」
....嬉しい。
憎しみに染まりながらも、私の夢を考えてくれていたなんて。
「――うんっ、そうだね」
「よしっ、なら早速出発するか」
▽
私達は、薄暗い森の中を淡々と進む。
途中、休憩を挟みながらも歩いて、歩いて、歩き続けた。
すると、森の出口がようやく見えてきた。
しかし――
その出口は数百の兵隊。
やはり、大勢の魔王軍が包囲していた。
「止まれっ」
部隊の隊長らしき者に呼び止められる。
鳥のような鋭い目つきとくちばしが特徴の魔物だ。
.....当たり前だが、私を魔王の娘とは気づいていない。
「.....俺たちに何か用か?」
進路を邪魔する魔王軍に、彼は問いかけた。
「貴様らには悪いが、上からこの森にいる人間たちを殺せと命令が入った」
隊長が合図を送り、魔王軍が一斉に構えの姿勢に入る。
「その命、頂戴させていただく」
敵の脅しに、彼は眉一つ動かさない。
「...........召喚」
彼のそばの地面に魔法陣が浮かび上がる。
分身のオークが召喚された。
その光景に、魔王軍たちの間で衝撃が走る。
けれど、降り注がれる視線は分身ではない。
別にあった。
「.......ビットナイト様!!」
召喚された分身が、ビットナイトの首を掲げていたためだ。
「命令した上司はもう死んだ。.....それでもお前たちは命令を貫くのか?」
彼が一気に漆黒のオーラを放出する。
あまりの禍々しいオーラにほとんどの者が後ずさった。
辛うじて、リーダーだけがその場で耐えている状況。
「一つ、良いことをを教えてやる」
張り詰めた空気が周囲を漂う。
誰も彼の言葉を邪魔することはできなかった。
「この生首は、お前たちの命をここで切り捨てるつもりだった」
数百の兵隊の間で動揺が走る。
衝撃を受ける者、嘘だと思う者など反応は十人十色だった。
......とそこで、魔王軍の雑兵の一人が前に出てくる。
「.......でたらめを言うのはやめろ。仲間想いの、あのお方に限ってそんなことあるはずがない!」
真実を受け、その者は怒りを露わにしていた。
「メレシス様が殉職なされた時も、自分の責任と背負い込んでしまうようなお方なんだぞ。.....貴様なんかにビットナイト様のなにが分か――」
「私語を慎め」
隊長が部下の言葉を遮った。
「これ以上、続けるのなら軍機違反として貴様を処罰する」
「.........!!」
隊長の言葉に我に返ったのか、頭を下げた。
「規律を乱すような行動を取ったこと、深く謝罪します」
――だが、兵士はそこから動かない。
「ただ、あの人間は何も根拠が無いのにビットナイト様を侮辱した。黙って引き下がることもできません!」
「........愚か者め。あの男の話に恐らく嘘はない」
「どうししてですか!?なぜ隊長である貴方まで疑うんです!?」
隊長はその問いに無視をして、彼を見やる。
「.....どうやら、リーダのあんたには信じてもらえたようだな」
「今回の作戦には違和感があったのでな。信じざるを得ん」
彼は隊長の反応に、話が通じる者と判断したのかオーラによる圧を少し緩めた。
「俺を含め、この森にいる兵のレベルは皆低い。.....つまり、使い捨てても問題ない者達を意図的に集め派遣したってことだ」
ドサッと兵士が膝を突いた。
「........嘘だ。俺たちを使い捨ての駒として見ていたなんて」
その落胆ぶりから察するに、半ば放心状態に陥っていそうだ。
「――それで人間よ」
隊長の声が一段低く、より深刻そうなトーンになった。
「味方であるはずの兵を、なぜ上がわざわざ処分する?」
何も知らない目線から考えれば、最もな疑問だ。
たとえ使い捨ての駒だとしても、利用価値はある。
しかし、魔王はわざわざ殺す判断をした。
だから隊長は、その決定の裏に何かあると踏んで質問したのだろう。
「あんたの問いに応えてやってもいいが、条件がある」
「........なるほど、取引か。それで、なにを望む?」
「まずは俺たちを見逃すこと。そして、二つ目は魔王軍の捜査範囲を明かすことだ」
「分かった。その条件を飲もう」
隊長は、兵士の一人に地図を持ってこさせた。
そして何か書いた後、その地図をこちらに投げる。
「.....そのバツ印のついた所が見張っている範囲だ」
彼はその地図を広げ、一通り目を通した。
「この情報が本当と証明できるか?」
「無理だな。こればかりは、俺を信用してもらわないと取引が成り立たない」
「そうか。なら――力の前貸し」
漆黒の魔力を隊長に流し込む。
その突発的な行動に、相手は初めて焦りを見せた。
「おい、貴様どういうつもりだ」
「あんたに、俺の魔力を貸し付けた。到底返済できない程の魔力をな」
「.....返済だと?」
「貸したものには、当然利子がつくものだろ?この魔力もそれと同じだ」
「払えなければ、どうなる?」
「あんたはそこのオークと同じように、俺に隷属化する」
「貴様、嵌めやがったな」
いつ戦いの火蓋が切られてもおかしくない、状況。
そんな中、彼が手を出し隊長に待ての合図を出す。
「ただし、あんたが裏切らなければこちらも何もしない。たとえ分身になったとしてもな」
「..............裏切った場合は、どうなる?」
「分身にとって、俺の命令は絶対だ。もし、この地図に嘘の情報があると発覚した場合――」
彼の目つきがより一層、鋭くなった。
「あんたに自害を命じる」
「.........................」
「書き直すのなら、今の内だぞ」
「........もう一度、その地図を貸せ」
彼は相手の方に、地図というパスを投げた。
......再び書き直した後、こちらにまた返ってくる。
地図を使ったキャッチボールに、幾つの駆け引きが詰まっていたのだろうか........。
私は想像することすらできなかった。
「今度は貴様が、情報を明かす番だ。......なぜ我々の殺害が計画されたのかの理由を」
「あぁ、約束通り話してやる。まず、あんたらに与えられた任務は建前で――」
彼は淡々と持っている情報を話す。
一つはA級勇者の討伐というのは口実で、本当の狙いは機密を知る私だという点。
二つ目は真の計画を明かさなかった理由は、末端が情報を漏らすリスクを防ぐためであること。
そして、魔王軍が命じられた人間蹂躙は私を知らなくても無差別で殺せるという狙いのためだと。
「だが、そうすると必然的に末端の誰かがルーナと接触することになる。その際、彼女が機密を明かせば、共犯者が増えてしまう」
「......そうか。だから魔王様は、そのリスクを抑えるために我々を処分することにしたと」
相手は、腕を組みながら何かを思案している様子。
「質問には応えてやった。....約束通り、俺たちは見逃してもらえるんだよな?」
「......................」
隊長がくちばしを開け、息を大きく吸い込んだ。
「..........第八隊に告ぐ!」
軍全体が再び構える。
上の一合図があれば、次の瞬間殺し合いが始まる。
「......本日を以って、我が隊を解散する!!」
「「...........!!?」」
しかし、出した合図は、戦闘開始ではなかった。
周囲に混乱が広がった。