Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

9、egoism(2)

一瞬、聞き間違えたのかと思った。
 確かに仲島に出くわすのは気まずいが、その考えに至らなかったのだ。
 涼の口調は静かな怒気をはらんでいて菫子は、反射的に口を開いていた。
「嫌よ」
「……あそこを辞めろ言うてるだけやろ」
「涼ちゃんが心配してくれるのはありがたいんだけど、
 辞めるまでしなくてもいいと思うのよ」
「……相手の来ない時間に働くとか」
 言い争いを始めた菫子と涼に助け舟を出そうと伊織が口を挟む。
「ごめん。それは難しいかも。偶然が重なる場合があるし」
「じゃあ辞めるしかないやろ」
「慣れてきてるし、店長も信頼できる人だし、あのコンビニは辞めたくないのよ!
 たった一人の為に何でそこまでしなくちゃいけないの」
 反対されるほどに、受け入れられない。
「お前がそいつに盗られたらと思ったら正気でいられなくなる」
「二年近くも涼ちゃんを想ってきたのに、ふらっと他の人にいっちゃうと思うの?」
「菫子の意思を無視して突っ走る場合もあるんやで!」
「……涼ちゃん」
「……すまん。けど、付き合いだしたら付き合いだしたで、
 ちょっとしたことで不安掻きたてられるんや。分かってくれ」
「そうよね……」
 伊織は、相槌を打ち、カップの中身を飲み干した。
 重い空気にそぐわず音を立てている。
「……伊織」
「はいはい。おかわりもあるから」
 さっさと二杯目を菫子と涼のカップに注いだ伊織はにこにこ笑っている。
「青春って感じでいいわね」
「永月、こっちは真剣なんやけど」
「だから何。二人ともちょっと落ち着かないと駄目よ」
伊織の言葉は涼と菫子の胸にぐさぐさ刺さった。
 菫子と涼は顔を赤らめてお互いを見つめ、カップを口に運ぶ。
 伊織は涼しげな眼差しを送るだけだ。
「ごめん……伊織のおかげで頭が冷めたわ」
「永月……いや永月姐さん」
「草壁君……やめてよ。おかしすぎ」
 お茶らける涼に伊織は吹き出してしまった。
 菫子もつられて言いそうになったが、気分を変えなければと思った。
「伊織、私のことよりもあなたのこと話して。
 今は無理だったら電話とかでもいいけど」
「そうね……分かった。話すわ。草壁君も聞いてくれる」
「あ、ああ。俺も聞いてええの?」
「ここで話すと決めたんだもの」
 緊張感が部屋を支配する。
 菫子と涼は伊織が話し始めるのを固唾を飲んで見守っていた。
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