隠れスー女の恋の行方
第3章:はじめての相撲観戦デート



澪が両国国技館の桝席に座るのは、これが人生で初めてだった。

テレビや雑誌、写真で何度も見てきた光景。
だけど、いま自分の目に映る土俵は、それとはまるで違って見える。


——本当に来てしまったんだ。神崎さんと、相撲観戦。
 それに神崎さんの浴衣姿かっこいい。


「わ、結構いい席だね。見やすい」

「会社の福利厚生で、ちょっと割引があったので……あ、でも、神崎さんもチケット代、ちゃんと払ってくださって……すみません、こんな場所に……」

「いやいや。むしろ、感謝したいくらい。赤木さんと、こうして並んで相撲観る日が来るなんて、思ってなかったから」
 

そう言って微笑む神崎の顔を、澪は直視できなかった。

彼の横顔は、相撲を見つめるときだけ、ふだんよりずっと真剣だ。

大きな目に、土俵上の一挙手一投足が映っている。
真剣だけど、どこか楽しげで、少年みたいで——澪は、そんな神崎の横顔に、何度も視線を奪われた。

(……ずるい……)



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