夜探偵事務所

第十四章:生きた闇と死んだ光

第十四章:生きた闇と死んだ光


数日が過ぎた。
夜探偵事務所にはどこか穏やかな日常の空気が戻りつつあった。
健太は事務所の簡単な掃除をしたり来客用のコーヒー豆を補充したりと少しずつ「所員」としての仕事に慣れ始めていた。
だが彼の心の中ではまだ京都での出来事が渦巻いていた。加奈の悲劇。そして夜が背負うあまりにも重い過去。
一段落した時健太は意を決してデスクでタバコをふかしている夜に声をかけた。
「夜さん……あの」
「なんだ？」
夜は書類から目を離さずに応える。
「京都で……仁さんから聞いたんです」
健太は言葉を選びながら慎重に続けた。
「夜さんが深淵の者と戦ったのは今回が初めてじゃないって。その……15歳の時のこと」
ピタリと夜の動きが止まった。
彼女はゆっくりと顔を上げ健太の目をじっと見る。詮索するような値踏みするような鋭い視線。
だが健太の目に下世話な好奇心の色がないことを悟るとその視線は少しだけ和らいだ。
夜はふーっと長くタバコの煙を吐き出す。
「知っといた方が今後の仕事がやりやすくなるからな」
夜は独りごちるように呟いた。
「よし」
彼女はパンと手を一つ叩いて立ち上がる。
「コーヒー持ってソファに座れ」
「え？あ、はい！」
健太は慌てて給湯室へ向かう。戻ってくると夜はすでにデスクから移動し健太がいつも座るソファとは反対側のソファに深く腰掛けていた。
健太がローテーブルにコーヒーを置くと夜はニヤリと笑った。
「話の途中で寝やがったら減給だからな」
彼女はそう言うと椅子に深く体を預け天井を見上げた。
まるでそこに遠い過去の空が映っているかのように。

夜は静かに物語を話し始めた。