Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜
揺らぐ心
秋に向かって暑さが和らぐにつれて、小夜の心も落ち着いてくる。
だが想への気持ちに気づいたあの日から、どこか物哀しさを覚えていた。

(私は彼への想いを抱えたまま、この先も一人の時間を過ごすしかないんだ)

そう認めるしかなかった。
そして改めて、あの夜の想の演奏を思い返す。


誠実とはなんと虚しい言葉だろう
誰もがそんなふうには生きられない
と歌った『HONESTY』

ならず者よ いい加減 己に返れ
長い間 心を閉ざしたままだろう?
楽しいことが自分自身を傷つけることだってある
欲しいのは手に入らないものばかり
と歌った『デスペラード』

それでも救いを求めるように、
世界はこんなにも素晴らしい
と語った『What a Wonderful World』

あのバーでの演奏が、想のすべてを物語っている気がした。

「俺にもくれないか? 奇跡みたいな夜を。たったひと晩だけでいい。小さな夜を、俺に……」

その言葉は、彼の悲痛な叫びだったのだと、今ならわかる。

大きな腕に抱きしめられたあの夜の幸せは、今になって小夜の心を切なく締めつけていた。
< 45 / 123 >

この作品をシェア

pagetop