Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜
時間になり、冗談は封印して小夜は光を送り出す。

「行ってらっしゃい」
「ああ、あとでな」

光はスッと背筋を伸ばして颯爽と控え室を出ていった。
店内から拍手の音が聞こえてくる。
小夜は少しだけ控え室のドアを開けて、そっと様子をうかがった。

キャンドルの灯りが揺れる店内は、二人掛けのテーブルが配置され、カップルが笑顔でお酒を楽しんでいる。
その間を縫って、光はピアノに向かった。

今夜は特別に、グランドピアノをもう一台レンタルし、二台を互い違いに並べている。
そのうちの一台の前に立つと、光は微笑みながらお辞儀をした。
椅子に座ると拍手が止み、店内は静寂に包まれる。
皆が注目する中、光はおもむろに鍵盤に手を載せた。

まるで流れ星が流れるように、高い音から低い音へとグリッサンドで指を滑らせてから、ロマンチックなメロディを奏で始める。

『星に願いを』

女の子たちが嬉しそうに彼に微笑みかけるのがわかった。
光は敢えて低い音域を使い、大人のムードでゆったりと味わい深く演奏する。
馴染みのある旋律は、徐々に雰囲気を変え、シンコペーションのリズムにジャズの要素が色濃くなってきた。

(わあ、大人っぽい。素敵……)

店内でじっくりと聴きたくなる気持ちを抑え、小夜はドアの隙間からうっとりと光の演奏に酔いしれていた。
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