Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜
続いての曲は、ジャズでもよく演奏される『White Christmas』

聴き惚れていた小夜は、拍手の音でハッと我に返り、慌てて控え室のドアを閉めた。

(いけない、着替えないと)

衣装カバーのファスナーを開けて、中から赤いドレスを取り出す。
オフショルダーの七部袖で、スカートは張りがあり、ふわりとしたシルエットのドレスだった。

(うん、クリスマスっぽい)

着替えると、鏡で全身をチェックする。
胸元にはチョーカーを、髪飾りは白いファーをつけた。

ステージメイクを終えると、再びドアを開いて様子をうかがう。
窓から月明かりが射し込む中、ライトを浴びて演奏する光の姿に、思わずドキッとする。
先程よりも一層店内はロマンチックムードで、恋人たちから感嘆のため息が聞こえる気がした。

光のソロのラストナンバーは『いつか王子様が』
耳馴染みのある曲が、まるで初めて聴く曲のように、魅惑的に艶っぽく演奏される。

(はあ……、もうとろけそう)

やがて余韻をたっぷり残して演奏が終わる。
静寂が戻ってきても、名残惜しむように観客は表情を変えない。
ようやく拍手が起き、光は笑顔で立ち上がった。
小夜も一番後ろから拍手を贈る。
深々とお辞儀をしてから、光は右手を小夜の方に差し伸べた。
観客に一斉に振り返られ、小夜は笑みを浮かべながら光のもとへ向かう。
光はステージの段差を上がる小夜の手を取ると、そのままグッと抱き寄せた。

「どう、惚れた?」

耳元でささやいてくる光に、小夜は正面を向いたまま答える。

「音にはね」
「ふっ、じゃああとちょいだな」

なにを言ってんだか、と思いながら、小夜は光と並んでお辞儀をする。
そしてそれぞれピアノに向かって座った。
< 59 / 123 >

この作品をシェア

pagetop