Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜
とにかくこの場を離れなければと、演奏が終わると想はすぐにバーを出た。
エレベーターホールのソファに、再び座り込む。
組んだ両手に顔を伏せ、懸命に気持ちを落ち着かせようとした。

(こんな形でまた会うなんて……)

だが、なんとか気づかれずに済んだ。
大丈夫、再会したことにはならない。
そう自分に言い聞かせる。

やがて店内に残っていた数人の男性客が出てきた。
見覚えのある顔ぶれだったが、向こうは想に見向きもしない。
年輩の馴染みの客にまじって、一人だけ若い男性もいた。

「小夜ちゃんの演奏、なんというか、神々しかったな」
「まさに。よほどあの曲に思い入れがあるんでしょうね」

興奮冷めやらぬ様子の会話が聞こえてきた。

彼らがエレベーターに乗り込み、静けさが広がる。
想はノロノロと立ち上がり、バーに向かった。
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