Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜
ノクターンとセレナーデ
大みそか。
小夜は朝から大掃除をして、おせち料理を作る。
夜に軽く食事をしながらテレビを見ていると、生放送の音楽番組で豪華なアーティストたちが一堂に会して歌っていた。
その中に、想の姿もある。

(わあ、かっこいい!)

サイドの髪を整え、黒いジャケットを着た想は、華やかな他のアーティストと並んでもひと際目を引いていた。

(なんか、オーラが違う。寡黙だけどそこにいるだけで存在感があるというか。こんな人と二人きりで話したなんて、信じられない)

ただ話すだけではなかったが、そこから先は考えただけで頭から火が噴き出そうだった。

出演者たちはお祭り騒ぎのように、その年のヒット曲を次々と披露して盛り上げる。
トークも交えて終始楽しい雰囲気だったが、やがて想の出番になり、司会者の隣まで歩み出た想にお決まりの質問がされた。

「想さんにとって、今年はどんな一年でしたか?」

想は落ち着いた雰囲気で、ゆっくりと言葉を選んだ。

「今年は、出逢いと実りの年でした。音楽に関しても、新たな道が拓けたと思っています」
「では、来年はどんな年にしたいですか?」
「来年は……」

少し考えてから、想はカメラを見つめてはっきりと告げる。

「幸せな一年にしたいです」

ずっと真顔だった想が少し微笑んでいて、小夜は思わずドキッとする。
まるで自分と目が合い、自分に言ってくれているような気がした。

(幸せな年に……。それは、私と?)

厚かましくもそう考えてしまう。

(そう思ってくれてたらいいな)

やがて想がピアノの前に移動し、司会者が曲紹介をする。

「それでは、今年も大活躍だった想さんのヒット曲。『真夏のピエロ』と『Snowy Crystal』を二曲続けてお聴きください」

画面が変わり、想の横顔がアップで捉えられる。
ドラムのフィルインで曲が始まった。
明るく賑やかなサウンドにピアノが加わる。
楽しげに演奏するバンドマンたちの中で、愁いを帯びた表情の想が少し物哀しいメロディを奏でた。

『真夏のピエロ』

やっぱりこの曲は。想が明るさの中に本音を隠した曲だったのだと、小夜は改めて気づく。

そして二曲目の『Snowy Crystal』

想だけがステージに残り、グランドピアノを弾きながらゆったりと歌い出す。
自分の気持ちをそのまま音に込めて。
素直に真っ直ぐに、想の想いが伝わってきた。

(素敵。想って、内に秘めてるものが人を惹きつけるんだろうな。想の生き様とか、抱えているものすべて)

生き方、考え方、人生そのものを、想は音で表現する。
だからこんなにも心惹かれるのだ。
それはきっと、想自身が魅力に溢れた人だから。

小夜はそんなふうに感じながら、テレビの向こうの想の演奏にうっとりと聴き惚れていた。
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